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1987年11月13日

言語明瞭・意味不明



  日本のテレビ番組でこんなジョークを聞いたことがある。それも一度ではなかったから、一部の芸能人の間では<内受けのする>ネタだったかもしれない。
  口調と間で聞かせるジョークを書き写すのは難しいが、敢えて試みると、こうなる。

  外国旅行は楽しいものだ。だが、なんといっても困るのは言葉だ。時にはとんでもないことが起こってしまうことがある。これは俺の友人が経験したことだが、場所はロサンジェルスのユニオン駅。その友人は一人旅の最中で、列車を利用してサンディエゴに行こうとしていた。
  すごい美人の係がいる切符売り場に行ってから友人は考えた。「サンディエゴまで、とは英語でどう言うのだったっけ。そうそうトゥー(TO)を使えばいいのだ」。そこで友人は思い切り威勢良く「トゥー・サンディエゴ・プリーズ」と言った。−−美人の係はニッコリ笑って…、切符を二枚(TWO)差し出してきた。
  英語に強くないこの友人は焦る頭でまた考えた。「サンディエゴまで、“まで”は英語で何と言う?そうだ、ドコソコヘというのだからここは“フォー”(FOR)に違いない。“トゥー”では間違われても仕方がないか」
  友人は内心の動揺を隠して、係に微笑を返しながら、今度こそはと「ノー。ノー“トゥー”。“フォー”・サンディエゴ・プリーズ」と言った。
  この友人は結局、サンディエゴ行きの切符を“四枚”(FOUR)持って列車に乗り込んでしまったそうだ。列車はケッコウ混んでいたのに、俺の友人の席、一列四人分に座っているのはヤツ一人。サンディエゴがずいぶん遠く感じられた、と日本に戻たその友人が泣いていたよ。いやいや、外国ではホント言葉で苦労するよネ。

  竹下政権が発足した。中曽根前首相の派手好みは内政外政において、良くも悪くも、首相がやりたいことを国民に分かり易くはしていたような気がする。
  さて、新首相はというと、どうも、前首相とは相当の様変わりを覚悟しておいた方がいいらしい。

  竹下新首相の発言、というのを<そのまま紹介>したらどうなるか。
  抜擢人事をするのかという質問への答えは「よくいわれた<アッと驚く為五郎>と、そんなことは、これは客観的にみていえることですけれど、わたしの選考の考え方の基準にはございません」
  竹下内閣の特色として挙げた<自民党らしさ>の意味を問われたあとのは「まさに自民党らしさは自民党らしさ。すなわち、いかにも国民政党として皆様から評価いただけるようなことである」
  十一月末の臨時国会のテーマを聞かれたあとのは「いま、常識的に考えて給与法の問題等が存在していることは、私の常識の中にございます」

  これらの竹下発言を紹介した<週刊朝日>は「まさに“言語明瞭・意味不明”」と断じている。発言を取材した英字記者から「どう翻訳したらよいのか」と悲鳴があがった、という。

  これから日本はいったいどこへ行くのだろう。
  日本語としてさえ“意味不明”の言語・思考体系を持つ首相の下で、日本人は自分たちの行きたい駅までの切符が間違いなく買えるのだろうか。
  思い切り大目に見て、一枚の切符が欲しいときに「トゥー」や「フォー」の切符を買わせられるぐらいのことは我慢するとしても−そのために周囲に他の乗客の姿が見当たらなくて淋しい思いをすることがあったとしても−せめて、自分の行き先にはなんとか無事にたどり着きたいものだ。
  外国−国際社会−ではホントに<言葉で苦労する>のだから。

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