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1988年1月20日

首相訪米



  一月十五日の<USAトゥデー>紙にこんな見出しの記事があった。
  <対日“報復”論に熱気>
  竹下首相がレーガン大統領との初の日米首脳会談を終え、次の訪問国カナダに着いたばかりという頃に、全米最大の発行部数を誇るこの新聞は一面にこう書いていた。

  竹下首相とレーガン大統領の会談のあと、保護貿易主義者の熱が一層上昇している。
  週末までのところ、レーガン政府は首相との会談を<有益な顔合わせの訪問だった>としている。だが、六百億ドルにのぼる米国の対日貿易赤字が解消されそうな話はなかった。
  レーガン大統領は保護貿易法案への拒否権発動を言いつづけているが−−
  ヤイター米通商代表は、公共事業への米企業参入を認めるという日本の決定について、ホワイトハウスはほとんど喜んでいない、と語ったうえで、日本の(受け入れ)計画が「米国の要求を満たしていない」ため、「報復的な」制裁があるかもしれない、と示唆、「今後の交渉も厳しいものになるだろう」と指摘している。
  対日報復措置法案の提案者で、対日批判の急先鋒であるミズーリ州選出のダンフォース上院議員(共和党)は、米国産品に対する日本の輸入制限は「首相が一つ声明を出したくらいではなくなりはしない。日本はビジネスのやり方自体を変えなければならない」という意見の持ち主だ。


ジョン・ダンフォース上院議員
(From:http://www.gridlockmag.com/rumblings/remembermove.html)

  ワシントン州選出のフォーリー下院議員(民主党)は「竹下首相は自分でした約束は守ろうとするだろう」と語っている。
  ウェスト・ヴァージニア州選出のバード民主党院内総務は「貿易不均衡を解消するための新しい努力」が必要だとの感想だ。

  レーガン大統領との会談後に「この首脳会談を通じ、日米関係の基礎を一層強化し得た。この基礎の上に、<世界に貢献する日本>を作り上げるべく全力をつくす」という内容のメモを読みあげた竹下首相だったが、さて、実際はどうなのか。
  「両国指導者間の良好な個人的関係は今世紀、来る世紀の挑戦に立ち向かうに必須のもの」という大統領の、それこそ当たり障りのない一般論に首相が浮かれているあいだにも、米国内には保護貿易の必要を改めて強調しようという動きが高まってきているらしい。
  同じ十五日の<ロサンジェルス・タイムズ>紙はどうだったかというと−−。こちらも<米、貿易問題で対日報復措置を検討 公共事業参入に関する竹下提案は不十分>といった調子で、芳しくない。この書き方からは、首脳会談の成果などひとかけらも感じられない。

  就任間もない竹下首相の訪米意図がそもそも不鮮明だった。首相は何はさておき、中曽根流の<米大統領との個人的信頼関係の樹立>を果たしたかったらしいが、大統領は首相が思っていたよりはうんと現実的だったようで、<信頼>するから、米企業の公共事業への参入をもっと認め、牛肉やオレンジの輸入自由化を実現してくれという返事をくれた。

  こうした場面は以前にも何度も見せられている。そのたびに、日本は「国際政治の現実に疎い」と評されてきたものだ。だが、そろそろ、そんな時代も終わりだ。「疎いふりをしている」という非難と苛立ちの声がしだいに大きくなってきているような気がする。

  <コミュニケーション摩擦>の解消は<貿易摩擦の解消>よりも、おそらく数倍難しいに違いない。

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