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1988年3月23日

バランス政治



  連邦大陪審は十六日、ウォルシュ特別検察官の告発に基づき、<イラン・コントラ事件>で中心的な役割を果たしたとされるオリヴァー・ノース元国家安全保障会議(NSC)軍政部次長(中佐)、ジョン・ポインデクスター元国家安全保障担当大統領補佐官、リチャード・シーコード元空軍少将、それにイラン生まれのビジネスマンであるアルバート・ハキム氏の四人を起訴した。

  ノース中佐の容疑は@詐取および米国の国家利益に反する犯罪の共謀A政府財産の窃盗B外国為替法違反およびイランへの武器横流しC議会審議の妨害D偽証E大統領による査問の妨害F公文書の破損および偽造G収賄H司法活動の妨害Iトラヴェラーズチェックの横領J政府財産詐取の横領など十六件。すべて有罪となれば、最高八十五年の服役と合計四百万ドルの罰金が科せられるという。


オリヴァー・ノース中佐
(From:http://www.cnn.com/interactive/specials/0004/cnn20/history.timeline/1987.html)

  ポインデクスター氏の容疑は@詐取および国家利益に反する犯罪の共謀A政府財産の窃盗B外国為替法違反C議会審議の妨害D偽証など七件。四十年の服役と百七十五万ドルの罰金の対象だ。

  シーコード氏の容疑は@詐取および米国の国家利益に反する犯罪A政府財産の窃盗B贈賄の共謀Cノース中佐への贈賄実行など六件。二十九年の服役と百五十万ドルの罰金に当たる罪状だ。

  ハキム氏の容疑は@詐取および国家利益に反する犯罪A政府財産の窃盗B外国為替法違反C贈賄の共謀Dノース中佐への贈賄申し入れなど五件。二十七年の服役と百二十五万ドルの罰金が科せられるかもしれない。

  ここまでくるだけでも、ずいぶん時間がかかったが、この起訴で、事件の全容解明に向けて状況が一歩前進したことになる。
  この事件の概要は<米国が秘密裏にイランに武器を供与し、その販売利益を密かに、ニカラグアの反政府ゲリラ組織“コントラ”に渡していた>というものだった。
  レーガン大統領は、イラン・イラク戦争を終わらせ、米国とイランの関係を修復して、イランに捕らえられていた米人人質の全員解放を実現するために、イランに<少量の防衛的武器と防衛システム>を供与していたことは認めたが、イランへ武器を売却して得た利益、一千万ドルないし三千万ドルの(イスラエルを経由しての)ニカラグア反政府ゲリラ“コントラ”への秘密援助については、関知しないと述べている。
  “コントラ”への援助を議会が禁じていた時期にこの事件が起きているからだ。だが、これまでにあきらかにされている証拠からは、違法に援助が行われていたという疑いが濃いようだ。

  ニカラグアの現政権を握るのはダニエル・オルテガ大統領。サンディニスタ民族解放戦線(FSLN)政府だ。一九二七年から三四年にかけて米軍と戦った民族主義者、アウグスト・サンディーノの流れをくむ革命組織だ。
  一方、“コントラ”はもともと、いくつもの反FSLN勢力が集まり寄った組織だったが、現在活動しているのは主として、ホンデュラスを本拠とするソモサ元政権グループのニカラグア民主勢力(FDN)とコスタリカに本拠を置く革命民主同盟(ARDE)だそうだ。
  レーガン大統領が十七日に急遽、三千二百人の米軍をホンデュラスに派遣したのは、そのFDNを<間接的に>支援するためだった。

  さて、ここで見えてくるのは、イラン・コントラ事件を起こしたのも、他国への軍隊緊急派遣を行うのも米国だが、一方、ノース中佐らに対する裁判に見られるように、不正に事件を引き起こした者たちをあくまでも追及し、外国の反政府勢力への援助に自ら制限を加えようとするのもまた米国だ、ということだ。
  米国の政治は前後左右に揺れ、振れるバランスのようだ。そして、その支点の位置を決めるのが国民だ。位置の決め方一つで米国の針路が変わる。

  秋の大統領選挙の行方が占える時期が近づいている。米国民は今回、何を、誰を選択するだろうか。

参考サイト:イラン・コントラ事件と武器商人たち

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