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1988年5月6日

拒否権発動の事情



  <一九八八年包括貿易・競争力法案>いわゆる包括貿易法案は先月二十七日、米上院本会議を通過、レーガン大統領の署名を求めホワイトハウスに送付された。
  宇野外相は二十八日、「保護主義的な内容の法案が上院でも通ったとことは極めて遺憾。外務省は(米)行政府の成立阻止に向けた努力を希望する」と述べ、大統領の拒否権発動に強い期待感を表明した。
  一方、米国側では、レーガン大統領が二日、米国商工会議所の年次総会で演説し、貿易法案に含めることを民主党が強く求めている<工場閉鎖事前通告義務づけ条項>について、従業員百人以上の企業が五十人以上の従業員に影響が及ぶ工場閉鎖や大量レイオフを行う際や、従業員の三分の一以上が六か月以上レイオフされる際には、経営者側は六十日前に労働者に通告しなければならない、というのは「機関銃でやるロシアン・ルーレットのようなもの。経営者側の不利は明確だ」として、同法案への拒否権発動の意思を改めて強調した。
  同年次総会で大統領は、事前通告を義務づければ、規制対象となる従業員百人以上の規模に企業を成長させることをためらう経営者が出現する一方で、合理化に失敗して競争力を失う企業も現れて、結局はかえって失業者を増加させることにもなりかねない、と語り、出席者の大きな拍手を浴びた。
  これに対し、ジェシー・ジャクソン師を引き離して民主党大統領候補指名争いをリードしているデュカキス・マサチューセッツ州知事は、レーガン大統領の拒否権発動に真っ向から反対、先週、この問題を共和党の大統領候補となることが確実なブッシュ現副大統領との争点の一つにするとの考えを示している。
  民主党の戦略担当者は、事前通告義務づけ条項で、一九八〇年と八四年の大統領選挙で共和党に流れた−特に北東部と中西部の−ブルーカラー票が再び民主党に戻ることを期待している。
  米通商代表部のヤイター代表は先月二十八日、<アラスカ産石油製品輸出禁止条項>とこの<事前通告義務づけ条項>が削除されれば、貿易法案の“再生”は可能だと述べ、民主党主導の議会と“取り引き”する意思が政府にあることを示唆した。
  もともと、この<事前通告義務づけ条項>は、貿易法案とは直接の関係がない、選挙対策用“国内”問題の趣きが強かった。だから、デュカキス候補の発言にもかかわらず、この条項を貿易法案に含めることに固執して大統領の拒否権発動にあい、同法案全体を葬り去るのは避けたい、との気持ちが民主党に生じても不思議ではない。外国、特に日本に対する多くの“注文”が日の目を見なくなるのは民主党にとっても好ましいことではないからだ。
  つまりは、大統領がいったん拒否権を発動したあと、民主党が政府との“取り引き”に応じ、<工場閉鎖事前通告義務づけ条項>と<アラスカ産石油製品輸出禁止条項>を削除した包括貿易法案を議会で成立させることは十分考えられる、ということだ。

  いずれにせよ、呼び名は“貿易法案”でも、これは、米国にとってはあくまでも国内問題だ。レーガン大統領がこの二つの条項について拒否権を発動するとくり返して言明しつづけてきたのも当然、国内問題としての判断からだ。
  米議会の同法案作成課程で何度も行われた対米公式交渉にことごとく失敗した日本政府が、いまになって、交渉相手国の大統領の拒否権発動にすがるというのは、日本が真に拒否してほしい<東芝制裁条項>や<スーパー三〇一条項>などの対日規制強化条項では大統領と議会のあいだに大きな意見の開きがないだけに、いささか奇妙だ。
  レーガン大統領が日本の国内事情に気を配り、日本政府の期待に応えて拒否権を発動するとは思えない。宇野外相の“期待感”は少し的が外れていたようだ。

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