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1988年8月23日

続々 黒人差別



  日本が牛肉・オレンジの輸入自由化方針を決定し、米国がこれを承認することで、日米関係がどうやら波風が立たない時期に入った、と思う間もなく、再び日本人の<黒人差別>問題が浮かび上がってきた。
  今度の焦点は二つだ。キャラクター商品の開発販売で急成長してきたサンリオ(東京)の人形<サンボ・アンド・ハンナ>と、ヤマトマネキン(京都)が製作しそごうデパート(有楽町店)が店内に置いた黒人マネキン人形がその一つ。二つ目は、自民党の渡辺美智雄政調会長の「破産しても黒人はケロケロケロ、アッケラカのカーだよ」発言だ。
=2003年補足= <ケロケロケロ>発言:「日本人は破産というと夜逃げとか一家心中とか重大に考えるが、クレジットカードが盛んな向こうの連中は黒人だとかいっぱいいて『あしたから何も払わなくていい』。それだけなんだ。ケロケロケロ、アッケラカのカーだよ」(自民党軽井沢セミナー、一九八八年七月二十三日)
  米議会黒人議員連盟(二十三人)は今月二日、サンリオの商品などが黒人を否定的に類型化しているとして日本政府に抗議し、黒人差別をなくすための有効な措置をとるよう厳重に申し入れた。これに答えて竹下首相は十二日、マーヴィン・ダイマリー同連盟会長に返書を送り、「米国の友人の心を傷つけたことを深刻に受け止め、悲しく思っている」と述べた。だが、連盟側は、この返書には「具体的な回答がない」とし、再び不満を表明した。黒人連盟側の記憶に、二年前の「黒人は知能程度が低い」という中曽根首相(当時)発言がいまだに鮮明であることは疑いない。
  
  二日の黒人議員連盟の会合には、日系下院議員のロバート・マツイ氏(民主・カリフォルニア州)も出席して「この問題は黒人社会の問題にとどまらない。ここ数年、日本は(黒人差別にたいして)鈍感でありすぎた。いまはすべての米国人がこの問題を憂慮すべきときだ」と発言。日本人の他民族への配慮不足を厳しく批判した。
  黒人議員連盟は、場合によっては日本製品不買運動などの対日報復も考える意向だ。ダイマリー会長によれば、米国の黒人市場は昨年、三千億ドル分の商品とサービスを購入しているが、これは世界で九番目の購買力に当たっているという。

  差別的な人形、マネキンを作り、販売、展示したとして抗議されたサンリオ、ヤマトマネキン、そごうデパートは、製造中止、商品回収、売り場からのマネキン人形撤去で、いちおう、同連盟に応えた。
  だが、その後のコメントはこうだった。「差別なんてとんでもない。黒人の持つ躍動性、ファッション性、セクシーさを狙ったのに」(ヤマトマネキン)。「日本人には黒人にあこがれるところもあるし、特に誇張と簡略化は日本の文化の特徴でもあるのだが…」(そごうデパート)
  では、なぜ製造中止や商品撤去をしたのだろうか。もし、本気で「差別ではない」と信じるのなら、あくまでそう主張するべきではなかったのか。抗議があれば、とりあえず表面だけを取り繕うという“あの”問題が解決したためしはない。
  もっとも、そんな主張をしたところで、サンリオやヤマトマネキンに“勝ち目”はなかったに違いない。「躍動性」「ファッション性」「セクシーさ」…。それが何であれ、黒人をシンボルとして単純に類型化して捉えること自体が<差別>の始まりなのだ、という黒人議員連盟側の主張がまったく理解できていないのだから。
  一方、「誇張と簡略化は日本の文化の特徴」という文化論が正しいものであるかどうかはともかく、その「誇張と簡略化」が<差別>の有効な手段であることは間違いない。渡辺政調会長の「ケロケロケロ、アッケラカのカーだよ」発言が問題になったのは、それがまさしく「誇張と簡略化」の有効性を“活用”した差別発言だったからだ。

  問題の根は深い。

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