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1988年8月26日

意外な選択



  新聞、テレビ、週刊誌などが行った各種世論調査で、支持率の上でデュカキス=ベンツェンの民主党正副大統領候補に大きく後れをとっていた共和党のブッシュ副大統領が、十五日から四日間ニューオリンズ(ルイジアナ州)で開かれた同党全国大会の副大統領候補指名で、起死回生を狙う“意外な選択”を行うことは十分に予想されていた。
  だが、四十一歳のインディアナ州選出の上院議員ダン・クエール氏を自分のパートナーとしてブッシュ副大統領が指名する、と読むのは、かなりの政治通にもほとんど不可能だったらしい。指名発表直後の党大会会場でも「クエールって、だれだ?」との声が代議員のあいだで飛び交ったほど、同氏の知名度は低かったという。


ダン・クエール氏
(From:http://www.comedyontap.com/features/quayle.html)

  そのクエール氏が共和党代議員と全米のテレビ視聴者に与えた最初の印象は、共和党の将来を担うに十分な若さと行動力を持った、俳優ロバート・レッドフォードばりの美男子上院議員、という好意的なものだった。
  だが、その印象に影を指す事実が、同大会が終了するかしないかのうちに明るみに出た。同氏が一九六九年、「親の影響力を利用して州兵に編入し、ヴェトナムの戦場行きを逃れた」というのがそれだ。一方、二十二日発売の<ニューズウィーク>誌は、同氏が一九八〇年の上院選挙の際に「ヴェトナム退役軍人」と表現した選挙ポスターを配布して、自分がヴェトナム戦争に従軍したかのような宣伝を行っていたことを暴露、SDI(戦略防衛構想)などの国防問題でタカ派ぶりを誇示しているこの若手政治家の透明とは言いがたい一面を明らかにしている。

  党大会後、各地で遊説をつづけているブッシュ氏は、クエール氏の<ヴェトナム戦争逃れ>問題を追及する声に対して強気の防戦に努めているが、共和党の一部には、クエール氏の<過去の行状>を感知できなかった選挙参謀の責任を問う声も出始めているという。
  また、二十一日には、党大会直前までは副大統領候補に最短距離にあると見られていたロバート・ドール同党上院院内総務がテレビ番組<ミート・ザ・プレス>に出演して、クエール氏が副大統領候補であれば、十一月の大統領選挙で共和党はかなりの票を失うだろうと警告、この問題を深刻に受け止めていることを明らかにしている。

  クエール上院議員はこのほかにも、過去に二人の議員とフロリダにゴルフ旅行をした際、未婚のロビイスト、ポーラ・パーキンソン氏を同行させたことがあり、ここでも副大統領候補としての適格性が問題視されている。

  けれども、ブッシュ副大統領にとって幸いなことに、同党大会終了後の十八、十九の両日に<ニューズウィーク>誌が行った調査では、ブッシュ氏が支持率で民主党のデュカキス候補を五一%対四二%とリードし、“待望の”逆転を果たしている。また、<徴兵逃れ>を理由にクエール支持をやめるとした人が一三%にとどまったのに対し、同氏の印象は悪くなっていないと回答した人は七四%にのぼり、ここでもいちおうブッシュ陣営を喜ばせる調査結果が出ている。
  それだけにとどまらず、これまでデュカキス候補に大きく水を開けられていた女性有権者のブッシュ支持率が四五%となり、今回の調査で初めて、デュカキス支持率と並んでしまった。

  ブッシュ氏の起死回生の“意外な選択”が計算どおりに功を奏したのかどうかは不明だが、とりあえずは、女性有権者が、<徴兵逃れ>とは無関係に、クエール氏に好感を抱いたことだけは確かなようだ。

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