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1988年9月16日

最後の貿易摩擦品目



  全米精米業者協会(RMA)と米国コメ市場開発協議会(RCMD)による十四日の米通商代表部(USTR)への対日<通商法三〇一条>発動要請で、ついに“真打ち”が表舞台に登場した。日米貿易摩擦問題の最前線に、本格的にコメが姿を現したのだ。

  <三〇一条>というのは、外国の不公正な貿易慣行のせいで被害を受けている米国内の業者が、これに対する対抗措置をUSTRに求めることを認める条項で、USTRは提訴から四十五日以内に、これを受理するかどうかを決定し、受理すれば、直ちに調査活動に入り、相手国と協議を行い、「不公正」だと認定した貿易慣行を相手国が五か月以内に改善しなかった場合には、ガット(関税と貿易に関する一般協定)に提訴して適切な「報復措置」を取るよう決められている。

  日本の貿易慣行が今回「不公正」だとされたのは、日本がつづけている事実上の<コメの輸入禁止>だ。これは、数量制限の廃止を目指すガットに違反しているだけではなく、ガット精神そのものに反しており、米国の通商の権利を否定している、というのが米国側の主張だ。

  ガットでは、各国政府が国内で生産調整を行っている農産物については例外的に「数量制限」を認めている。「完全自由化」はしなくてもいい、との判断だ。
  日本は現在、コメの生産調整を実施している。したがって、本来ならば数量制限が許されるところだが、現実に輸入されているのはタイからの二万トンにすぎず、事実上はコメ輸入禁止状態に近い。ガットは数量制限と輸入禁止を分けて扱っており、米国がガットへの提訴に踏み切った場合、“クロ”認定、市場開放勧告が出る可能性は高いとみられている。

  一方、USTRが精米業者などの訴えを一九八六年同様に却下した場合、この問題はガットの新多角的貿易交渉(ウルグアイ・ラウンド)での話し合いに持ち込まれるとみられるが、日本側は、国内業者保護のために米国政府が施行している食肉輸入法、欧州共同体(EC)の輸入課徴金など、各国が行っている農産物輸入制限策が同時に協議されるのでなければ、ウルグアイ・ラウンドにも応じない構えだ。

  自民党のタカ派議員の集団<国家基本問題同志会>は十四日、コメの自由化反対決議書を竹下首相に突きつけた。これを受けて同首相も「自由化には応じない」との姿勢を改めて明らかにした。佐藤農水相も記者会見で、精米業者などの提訴をUSTRが却下するよう働きかける日本政府の方針を表明した。

  一九八七年の全世界のコメ貿易量は約千二百万トン。全生産量のおよそ三・六%が貿易市場に出ているにすぎない。最大の輸出国はタイで、世界の貿易量の三八%を占めている。問題の米国は二番目の輸出国だ。シェアは二〇%になっている。

  米国米は日本米と比べ、生産者価格で六分の一、小売価格で三分の一という安さだ。今回の提訴の中で米国精米業者は、四年後の日本のコメ輸入シェアが国内需要の一〇%(約百万トン)となることを目標に交渉するようUSTRに求めている。
  日本政府の頭を痛くしているのはこうした“外圧”だけではない。生産調整で頼みにしている“減反”はすでに七十七万ヘクタールに及んでいるという。北海道と四国、九州の合計水田面積を上回る規模だ。在庫量も適正量よりも百万トン多く、二百三十万トンに達しているそうだ。―コメ政策は崩壊の危機に瀕しているようにさえ見える。

  フレスノで遊説中の共和党の大統領候補、ジョージ・ブッシュ氏は十四日、精米業者などのUSTR提訴を支持する演説を行っている。

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