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1988年9月26日

自由貿易協定



  「つまらない貿易紛争を次々と起こすのはやめて、貿易と経済に関する広範な合意を日本との間に新たに結ぶときではないか」(ウォルター・モスバーグ氏)という記事が十九日づけの<ウォールストリート・ジャーナル>紙にあった。日本だけではなく、韓国や台湾などのNIES(新興工業経済地域)も対象として検討していいという。
  同記事によれば、この考えは共和、民主両党の指導者の支持を得始めている。実際にはまだ、<日米自由貿易協定>や<環太平洋経済協定>が具体的に話題になる段階にはなっていない。だが、不安定な貿易と資金の往来がつづいているアジア諸国との関係を安定化させるために米国が、来年一月に発効する予定の<米国=カナダ自由貿易協定>に似た協定をこれら諸国との間に結ぼうという考えに関心を示す人物は増えているという。

  米上院本会議は十九日、<米加自由貿易協定実施法案>を賛成八三、反対九の圧倒的賛成多数で可決した。下院もすでにこれを大差で可決しており、同協定の米国側での批准作業は事実上完了した。この協定が発効すると、両国は互いの関税を五〜十年間のうちに全廃することになる。同協定はまた、知的所有権、サービス、エネルギー、自動車などの分野での相互市場開放もうたっている。レーガン大統領はこれを「世界の貿易自由化をリードする」ものと自讃している。

  米国際貿易委員会(ITC)はこれに先立つ十六日、日米自由貿易圏構想に関する報告書を上院財政委員会に提出している。これはまだ、日米間の自由貿易が生み出すはずのメリット、デメリットを分析しただけのものとされているが、議会が日米自由貿易協定の可能性調査にすでに乗り出していることがこれで明確になったわけだ。

  <ウォールストリート・ジャーナル>紙によれば、ジェイムズ・ベイカー前財務長官は、ブッシュ副大統領の選挙応援のために辞任する直前に、環太平洋経済政策立案のためのチームづくりを密かに進めていた。この案の予定対象国には米国と日本のほかに韓国、香港、シンガポール、台湾のNIESが含まれていた。
  この計画は根回しの段階で、ベイカー氏の辞任とぶつかって時間切れとなったが、これが表面化する前にも同氏は「アジアの新興経済および日本との間に、環太平洋という考え方の上に立った、より良い関係を築くことを考えるべきだ」との見解を示していた。選挙運動中のブッシュ氏も最近、同様の考えを明らかにしている。

  日米自由貿易協定締結を訴える人物はほかにもいる。民主党の上院院内総務だったマイク・マンスフィールド駐日米大使だ。また、同じ民主党のマックス・ボーカス上院議員(モンタナ)は、新日米貿易協定に関する交渉の開始を次期大統領に義務づける法案を提出している。
  ボーカス氏は「日本とどういう関係を構築するかについて、米国にはまとまった戦略がない」と指摘し、米国製品の輸入制限をしているとして、日本製品に対する報復をくり返してきた米国の従来の政策を批判している。同氏によれば、こうした政策は「米国は自分の問題をすべて日本のせいにしてしまう、飽きることを知らない不平家だ、という印象を平均的日本人に与えている」という。

  米国とカナダが二か国だけで自由貿易圏を構築することには、欧州諸国が反対しているだけでなく、日本も「世界経済のブロック化につながる」と批判的だ。だから、日本と米国の二大経済大国が孤立して自由貿易協定を結ぶとなれば、世界中から警戒の視線が集まることだろう。
  とはいえ、時代の趨勢は日米間の自由貿易を必要とする方向へと動いているようだ。起こってしまった貿易摩擦への対応策に追われるだけだった日本の政治家たちがこの動きに正しく対応できるかどうかに注目したい。

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