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1988年10月5日

日本の特殊性 <3>



  中根千枝東大名誉教授は一方で、日本人がユニークであるというのはやはり本当だとして、中国やインドと異なって明確な社会的行動規範を持っていないという意味では、西洋とだけではなく近隣アジア諸国とも、日本は相当にかけ離れている、という。
  中根氏はまた、「行動を決定する際の日本の法則は社会での長い期間の交流を経て」分かってくるもので、外国人にはすぐには理解しにくい、と述べ、さらに「実際、日本人の行動規範を把握するのは日本人自身にさえ簡単ではない」とつけ加えてもいる。

  ダニエル・オキモト氏とトーマス・ローレンス氏が編集した<インサイド・ザ・ジャパニーズ・システム>という本には、日本の経済構造がほかの先進工業国といかに異なっているかが書かれている。両氏は、取り引きの際に商品の値段ではなく相互の関係に重きを置く日本は、西洋諸国の“取り引き資本主義”とは違い“関係資本主義”の国だ、と指摘している。

  ライシャワー元駐日米大使はかつて、自分たちはほかとは違うという考えが原因で日本人は、世界貿易や国際緊張などの問題解決のために積極的に動いていない、と書いたことがある。日本人は自分たちが「特別だという考えを捨てて、世界との関係の中で自分たちがどういう存在であるかを知り、その世界の一員だということを知る必要がある」という指摘も行っていた。


エドウィン・ライシャワー氏
(From:http://webapps.jhu.edu/namedprofessorships/professorshipdetail.cfm?professorshipID=283)

  いや、日本人は自分たちが世界の一員だということに気づき始めているのかもしれない。
  公文教授が“腸の長さ”について書いて以来、この本の編集者の許には、日本人の腸は本当にほかの人間よりは長いのだと主張する医者からの手紙が数通寄せられているが、そのすべてが、腸の長さと牛肉のを消化する能力とは無関係だ、と述べていた。
  日米貿易交渉で“日本の特殊事情”として取り上げられていた“腸”“雪質”“土壌”“ゴムを使った野球ボール”などに対する輸入制限も、ついにすべてが解除された。
  竹下首相は、一九九二年までに対外援助を倍増して、米国に代わって世界最大の資金援助国として、世界に関わっていく、との約束も行っている。

  日本人のユニークさを信じる極端な考えは社会の本流ではない、と<朝日新聞>の松山主筆は言っている。外国―特に米国―の“過剰反応”がむしろ、日本人のユニークさに注目を集める役目を果たしたのだと見る同氏は、日本の経済力がまだ小さかったころは、この国がユニークであろうとなかろうと“どうでもよかった”ことだ、と述べている。
  だが、日本の経済力は増した。日本は一層、国際的に通用するやり方を採用する必要に迫られいる。そんな時期に松山氏はこうも語っている。「ユニークであることそれ自体には何の問題もない。米国の習慣をすべて採用し、米国人のようにならなければならないということもない。逆に、米国の方が日本の習慣をいくらか採用すべきだ―。そうして、もう少し自分たちの特異性を知るべきだと思う」
  「自分たちはユニークなのだ/日本人の思い込みに外国人はうんざり」という見出しがつけられた八月二日の<ロサンジェルス・タイムズ>紙の記事そのものは、その見出しほどには皮肉には書かれていなかった。だが、中根東大名誉教授や<朝日新聞>の主筆である松山氏までが“日本人のユニークさ”について疑いを抱かない様子なのには、いささか当惑ぎみだ。
  その“特殊性”をことさらに強調しながら日本がこの世紀中に世界に対して行ったことの数々が、サム・ジェイムソン記者の頭にはまだ鮮明に残っているのだろう。
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