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1988年10月24日

経済崩壊



  テキサス州ダラスのサザーン・メソジスト大学のラビ・バトラという教授が十月十六日づけの<デイリー・ニュース>紙に「米国を経済崩壊から救う方法」という興味深い記事を寄せている。

  バトラ教授は「一九九〇年台には必ず大不況がやって来る」と警告する経済学者だ。南北戦争以後の経済史の分析から同教授は、米国経済には@十年ごとに驚くほど違った様相を見せるAその違いが六十年周期でくり返される、という二つの特徴があることを発見し、この現象を根拠に、昨年十月十九日のいわゆる“暗黒の月曜日”の株大暴落も予測していた。

  「必ず大不況がやって来る」とはいうものの、教授は、不況を避けるために打つ手はない、と言っているわけではない。まず第一にやるべきことは「連邦財政赤字の解消」だ。それも、思い切った策が必要だという。教授は、財政赤字解消を可能にする唯一の方法は“増税”だと断言している。

  増税が必要であることは、たいがいの政治家には分かっているに違いない。ただ、一九八四年の大統領選挙で増税を口にして大敗した民主党のモンデール候補と同じ轍を踏みたくないために知らぬ顔をしているだけだ。
  一九八〇年代には、中間・低所得者の税負担が増加した。高所得者の方は、収入が上昇したことに加え、減税の恩恵も受けた。
  米国ではすべてが課税の対象となるが、“富”だけは例外だ、とバトラ教授はいう。
  安定した税収に支えられた政府の保護を受け、秩序ある社会の恩恵を最大に受けているのは“富”を持つ層だ、ということだ。この高所得層の税負担は比較的に軽いにもかかわらず―。

  上下両院合同経済委員会の計算では、一九八三年には米国人口のわずか〇・五%、四十二万世帯が全米の富の二八%を所有していた。米国資産全十五兆ドルのうちの四兆二千億ドル、一世帯当たり、平均一千万ドルだ。
  バトラ教授の計算によると、資産百万ドル以上の世帯に、その額の大きさに従って三%から五%を累進課税すると、政府の税収は年間千七百六十四億ドル増加するという。
  二番目に豊かな層の〇・五%が所有する富は一兆二千億ドルで、全米の富の八%。一世帯の平均資産は二百八十万ドルになる。同様に課税すれば、この層からの税収増加は二百六十四億ドルになるそうだ。
  つまり、米国の最も富裕な人口一%への課税を少し強化するだけで、税収は年間で二千二十八億ドルも増加するというわけだ。

  一九八〇年代の米国は、富裕層から毎年二千億ドルもの借金をして、その大半の千五百億ドルを利子として返済、結局五百億ドルだけを政府事業に使うという、その場しのぎの経済政策をとってきた。その結果、米国の財政赤字はこの間に、一兆ドルから二・五兆ドルに膨れあがっている。

  政府に貸すカネがあるのだから、富裕層に最高五%の資産税が払えないはずはない。同教授によれば、消費を沈滞させず、不況を招かない課税方法はこれしかない。
  財政赤字がなくなれば、金利が下がる。金利が下がれば、工場新設などの産業投資に資金が回る。米国人口の一%の最富裕層への課税を強化しても―“投機”が減る効果はあっても―投資が減少することはない、と同教授はいう。

  「米国が稼ぎに応じて暮らす」必要を強調するバトラ教授は「わたしの考えを採用して赤字・金利上昇・国家負債の増大という悪循環からわたしたちを解放してくれる政治家がどこかにいないものだろうか」と述べている。
  さて、この増税を実行しない限り、九〇年代には必ず大不況がやって来る、ということだが―。

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