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1988年11月8日

コメと日本 <3>



  <ロサンジェルス・タイムズ>紙のサンジャー記者の観察がこうつづいている。
  コメは日本の国家的福祉には欠かせないものなのだ、農業協同組合は自らを強化するためには何でもやるのだ、という考えが、事あるごとに増幅されている。
  こうした考えの持ち主たちは、日本製半導体に米国が頼りすぎる状況になったときの国防総省の発言を引き合いに出して、“日本が外国のコメに頼るようになったらどういうことになるか”を語る。「国の安全保障と関わり深い食料をすべて米国に頼りきる国は世界のどこにもない」との述べたのは全中の堀内己次会長だ。

  だが、いまのほとんどの日本人にとって、コメの持つ意味ははるかに小さいものになっている。全中には心配なことに、日本人のコメに対する嗜好は急激に下降しているのだ。
  日本政府の統計によると、国民一人当たりのコメ消費量は一九五五年では年間二二〇パウンドだった。それが八六年までに三分の二に減っている。このジリ貧傾向を逆転させようと、政府は最近、学校給食でもっとコメを食べさせようという運動を開始したほどだ。
  コメはいまでは、古代神道との関連でよりは、現代風に貨幣経済との関連で語られることの方が多くなっている。「コメの完全自給が国家の安全保障にとって必要との主張はプロパガンダだ」と言うのは青山学院大学の速水教授だ。同教授は「コメは農協のための福祉制度になっている」と断言している。
  速水教授によれば、日本政府は今年、四十四億ドルという巨額の補助金を農家に支給している。この(食料管理)制度により政府は、農家からのコメ買い取り価格を決め、農協を通して国内のコメのほとんどを購入するが、売り渡し価格は買い取り価格以下(逆ザヤ価格)に設定されている。しかも、その買い取り・売り渡し価格はともに人為的に高くしてあり、日本人は結局、世界のコメ市場価格の約八倍もするコメを食べさせられている。
  もっとも、コメの値段が高すぎるという不満は多くない。だが、コメ生産への補助金制度に反対する農民もいる。彼らは大規模な低価格闇市場を作り上げている。

  日本政府はここ数年、コメから他の作物への転換を農家に勧めているが、コメに対する補助金と優遇税制があるため、これに従う農家は少ない。その結果として、小規模で非効率的なコメ農家が日本中にあふれ、昨年も、国内で消費しきれない量の収穫となってしまっている。

  全中は、全米精米業者協会(RMA)が四年後の目標として掲げている<日本コメ市場の一〇%開放>を受け入れれば、全国三百五十万戸のコメ農家のうち数十万戸がつぶれると主張している。
  全中に票と資金を大きく依存している自民党は、全中を怒らせるぐらいなら、自動車産業を見捨て、<ウォークマン>の輸出規制を行う方がまだましだ、と考えているのかもしれない。

  全中はワシントンで、コメ自由化反対のためのロビー活動をつづけている。この活動についてRMAは、日本が米国農産物の最大輸入国だという事実を利用して「小麦、穀類などの米国生産農家への報復」をちらつかせながら全中が“脅しのキャンペイン”を行っている、と非難している。
  そのような“脅し”の証拠はないが、米国農産物を日本が年間百十億ドル購入していることは事実だ。
  <コメの自由化と日本>がいま、日本と米国のあいだの最大争点になっている。

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