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1988年12月1日

祈る理由



  ブッシュ次期大統領の財政・経済運営がどうなるかを“お膝元”の米国民以上に真剣に注目している人たちがいる。日本の産業界の指導者たちだ。
  “注目している”という言葉では、あるいは、実情を表現し切れていないかもしれない。“祈るような気持ちで見つめている”とでも言うべきだろうか。“祈る”内容は、ほかでもない、米国の財政・貿易赤字をブッシュ次期大統領になんとか削減してほしいというものだ。
  “祈る”理由も単純明快だ。有価証券を買い込む、直接産業投資を行う、不動産を買収するといった形で、日本の対米投資は莫大なものになっている。
  そうなったのは、米国経済の―少なくとも―基礎構造は頑強である、と日本が信じてきたからだ。だが、その基礎構造が、財政と貿易の巨大な赤字でぐらつき始めている。ブッシュ氏に何とか手を打ってもらわなければ、投資が、目減りどころか、すべてムダガネとなってしまう恐れさえ出てきたのだ。

  もちろん、日本産業界の指導者たちも、ただちに赤字削減を行うようブッシュ次期政権に求めているわけではない。一九八八年会計年度には千五百五十億ドルに達した財政赤字をいくらかでも削減する計画を、せめて六か月以内には見たいと考えているに過ぎない。

  ブッシュ氏は、大統領就任後直ちに、この問題について議会と協議に入る考えを示している。だが、もし、赤字削減計画がすぐに立案されないようなら、これを悪い知らせと受け取って、日本の投資家たちは対米投資の一部引き上げを考慮し始めるかもしれない。
  そのあとに起こると考えられる出来事は少々深刻だ。日本の対米投資の引き上げの動きが引き金となって、米国の株式・債券市場が大混乱に陥る心配があるからだ。次に大混乱が起これば、一九八七年十月十九日の<暗黒の月曜日>以上のものになるのではないか、と恐れも強いという。

  米国は自国の財政赤字の多くを日本からの投資で補填してきた。この十一月に売り出された米国財務省の十年もの中期証券は、購入者の三〇%が日本の投資家だった。財務省証券に対する日本からの投資が縮小するとの噂だけでも、米国財政の先行きへの不安感が広がり、為替・株式相場に影響が出るというのが実情だ。投資引き上げが現実に開始される事態ににでもなれば、米国経済は深刻な危機を迎えることになる。

  一方、ドルの対円相場は一九八五年の水準から五〇%下落している。この下落に助けられて、対日を含む米国の輸出は増大し、十分とはいえないまでも、米国の貿易赤字は縮小傾向にある。だが、ドル安定策もそろそろ限界に近づいているという。日本の産業界は円高に天井感を抱き始め、米国の貿易赤字は今後は、政府による通貨・為替政策によってではなく、生産現場が力をつけ、競争力のある製品を造り出すことによって縮小されるべきだ、との意見を強くしているようだ。経営コンサルタント会社<マッキンジー>日本支社の大前研一支社長は「米国製品に競争力をつける唯一の道は、生産性と品質の向上を図ることだ」との考えを示している。

  世界経済の中心として、米国経済は破綻が許されない“宿命”を負わされている。日本が力をつけたとはいえ、日本を世界経済の盟主として担ごうという動きはない。後継者が育たないうちに老いが目立つようになってしまった看板役者・米国をブッシュ次期大統領はどう再生させようとしているのか、日本の産業界ならずとも注目せざるをえない。

                           (<USAトゥデイ>の記事を参考にしました)

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