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1989年3月20日

対米不動産投資


  三月七日の本紙に「米国で存在感薄い日本人」という見出しがついた寄稿記事が紹介されていた。寄稿者はニューヨーク在住の投資会社社長のアーサー・ミッチェルという人物だった。
  この中で同氏が日本人向けに行った助言の一つに「投資家はその意図を(米国人に)正確に理解させること」というのがあった。「日米間の交易は拡大しているのに、米国人の多くが、日本人、彼らが考えていることをほとんど知らない」と嘆く同氏は、日本人が「米国の人々に対して意思を効果的に伝える重要性が増している」と強調していた。

  日本の広報活動の不足をミッチェル氏が心配するのは、例えば、「日本人が取得した商業用不動産は全体の一%にすぎないのに、彼らがすべての不動産を取得しようとしていると米国人は思い込んでいる」というような状況があるからだ。
  なるほど、せめて、日本人の対米不動産投資の実態を示す数字ぐらいは、日本政府や貿易振興会(ジェトロ)、あるいは経営者団体などが自ら公表し、対日誤解の解消を図ってもいいところだった。

  一九八八年の日本の対米不動産投資実態が今月八日、明らかにされた。だが、数字を発表したのは米国の民間不動産コンサルタント会社<ケネス・レベンソール>で、やはり、日本の政府でも貿易振興会でもなかった。

  友人・知人と交わす会話の中に、日本による対米不動産投資が話題として挙がることがあるかもしれない。一度、大まかな知識を得ておくのも悪くない。
  同社の調べでは―。

  <1> 日本の対米不動産投資は一九八八年、前年比約三〇%増の百六十五億四千万ドルに達した。これは、十六億六千万ドルだった八五年の約八・九倍に当たる。
  <2> その結果、日本の米国不動産累積取得額は四百二十八億八千万ドルとなっている。
  <3> 八八年の州別投資額では、カリフォルニアが五十六億二千万ドル(三四%)で一位、ニューヨークが二十八億ドル(一七%)で二位、イリノイが十八億七千万ドル(一一%)で三位だった。以下、ハワイ、ジョージア、テキサス、マサチューセッツ、アリゾナとつづいていた。
  <4> 都市ごとにみると、三十億五千万ドルのロサンジェルスが日本の最大の標的となっていた。二位は前年一位だったニューヨークで、二十八億ドルだった。
  <5> ロサンジェルス郡では、ウェルス・ファーゴ・ビルが一億四千七百万ドルで、センチュリーシティー・マリオットが八千五百万ドルで、リビエラ・カントリークラブのち株の四九%が五千三百万ドルで、それぞれ買収されたのが目立った。
  <6> 全米最大の買収額は、西部セゾン・グループが取得したインターコンティネンタル・チェーンの二十二億七千万ドル。
  <7> カリフォルニア、ニューヨーク、ハワイという投資先“御三家”への投資額の対全米比は八八年、前年の六八%から六ポイント縮小して六二%となり、他地域への拡大傾向を示していた。
  <8> タイプ別の投資額では、オフィスビルが八十三億一千万ドル(五〇%)、ホテル/リゾートが三十五億七千七百万ドル(二二%)、多目的不動産が二十四億一千六百万ドル(一五%)、住宅が七億二百万ドル(四%)などとなっていた。
  <9> 八九年の予想投資額は百六十億ドルから百九十億ドル。

  ミッチェル氏はその寄稿の中でまた、「日本の投資とその存在が、米国経済に活気を与えていることを、もっと米国人に分からせること」とも助言していた。

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