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1989年3月27日

政府開発援助


  経済発展を果たしたことにより、いまでは、日本が世界一であるとされる分野は少なくない。
  昨年新たに世界一となったものに政府開発援助(ODA=オフィシャル・ディベロプメント・アシスタンス)がある。

  ODAとは、発展途上国の経済発展・福祉向上を目的として、先進国が政府ベースで贈与するか、金利・返済期間などの条件を緩やかにして貸し出す資金を指していう。厳しい条件がつけられた資金援助はODAとしては認められない。
  条件の厳しさを計る指数をグランド・エレメント(GE=贈与要素または援助条件緩和指数)と呼び、GE二五%以上の政府資金をODAとする。完全贈与はGE一〇〇%、商業ローンは〇%とされている。GEの数値が大きいほど、被援助国は自由に資金を使うことができるわけだ。

  一九八八年、日本はGE二五%以上の資金百億ドルを発展途上国に提供して、初めて米国を抜き、世界一の援助国になった。日本、米国、EC諸国などの先進十八か国とEC委員会で構成する開発援助委員会(DAC=デベロプメント・アシスタンス・コミッティー)の中でのことだ。八七年は、米国と日本に次ぐ援助国としてフランス、西独、イタリア、オランダ、英国、カナダ、スウェーデン、ノルウェーがつづいていた。

  結構づくめの世界一と見える日本のODAもこれまでは、実は、他のDAC諸国からはいつも不満の対象とされていた。日本のODAの対国民総生産(GNP)比がDAC平均を下回っていることがその要因の一つだった。同比は、改善が見られた一九八七年でも、DAC平均の〇・三四%に対して日本は〇・三一%にとどまっていたのだ。
  また、ある意味では、援助国の気前の良さを見る材料になるGE数値が低いことも批判の的になっていた。例えば、八六年、DAC平均が九三・二%だったのに対して日本は八一・七%、DAC中の最低だったからだ。
  対日批判は平たくいえば「金持ちの割には援助が少ないし、援助するカネも利息つき、条件つきが多すぎる」というものだった。援助を受ける途上国側が、他の援助国と対比して、不満に思っていただろうということも容易に想像できる。

  日本の“発展途上国援助世界一”に首を傾げる内容の記事が二十三日の<朝日新聞>にあった。ここではODAの金額やその比率の大小ではなく、援助の中身のそのものの“質”が取り上げられていた。
  何より、現地の実情にあっていないとの指摘が目についた。例えば、フィリピンのバタアン州に贈られた大型の最新式漁船は、沿岸漁業を営む地元では、操船技術もなく、無用の長物として港につんがれたままになっているという。また、インドネシアのバンドンでは、最新技術のごみ処理場が建設されたが、保守管理技術が正しく移転されなかったために、稼動したのは数年間だけで、設備や収集車を売りつけた日本企業だけは儲かったが、地元は、従来のごみ処理機能が破壊されておおいに困っているという。

  <朝日>の記事によると、オーストラリア海外協力協議会のジョン・バーチ前理事長は日本の援助に疑問を呈して「“貧しい人々のために必要なのは何か”という視点から、もっと長い目で援助計画全体を練り直すべきだ」と指摘している。米国・開発研究所のデイビッド・コートン・アジア地域担当副所長は、日本の担当スタッフ数の不足が問題だとしている。カナダ国際協力協議会のティム・ブロッドヘッド専務理事の「地球という共同体で、未来を分かち合うもの同士、南と北がパートナーシップを作り上げるべきだ」という意見も傾聴に値する。

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