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1989年4月17日

大統領の納税申告書


  二十八万七千百七十一ドル(約三千八百万円)という金額が米国の副大統領の年収としてふさわしいものかどうかについては、まるで見当がつかない。だが、ブッシュ現大統領夫妻の昨年度の納税申告の内容を見て「スッキリしている」という印象を受けたことは素直に告白してもよさそうだ。
  この収入に対し大統領夫妻は今年、六万二千ドル以上の納税を行った。いや、実は、夫妻が昨年度中に予納していた額はこの約五割増しの九万四千ドルにのぼっていたから、三万二千ドルが納めすぎだったことになる。夫妻は、三万二千ドルのうちの一万五千ドルを来年度分の前納に当て、残りを償還してもらうことにしたそうだ。

  さて、その二十八万七千ドルの年収の内訳は―。
  ブッシュ氏が副大統領に就任した1981年に、地位利用などの事態が発生するのを避けるために<白紙委任投資信託>で運用させることにした流動資産が生んだ十一万五千六百六十五ドル、配当金一万七千九百八十五ドル、受取利息二万二千十二ドルなど計十七万二千百七十一ドルと、副大統領の給与十一万五千ドルだった。
  資産運用からの収入が副大統領としての収入を上回っていたわけだ。
  夫妻はこの中から、一万二千四百六十八ドルを慈善事業に寄付していた。ボーイスカウトへの二十五ドルやイェール大学への三百四十ドル、ポートランドの病院への百ドルといった寄付もあった。

  おもしろいのは、ブッシュ氏のスタッフメンバーへのクリスマスギフトとして、経費五千六十四ドルがあげられていることだ。歳入庁(IRS)が認めるのは一人二十五ドルまでだから、夫妻は昨年、スタッフ二百人以上にクリスマスのプレゼントを贈っていたことになる。

  ブッシュ氏は申告書類の職業欄に「大統領」と記入していたが、これは形式上は間違い。記入が求められていたのは“昨年の”職業だから、「副大統領」と書くのが本当だった。

  クエール副大統領夫妻の昨年の納税申告内容も同時に公開された。副大統領の職業欄には「連邦上院議員/次期副大統領」と記されていたそうだ。総収入は十五万六千五百四十六ドルだった。
  内訳は、議員給与が八万五千二十五ドル、講演料などの収入が七万千五百二十一ドルのほか、配当金・利息収入がそれぞれ千八百六十二ドルと九千六百八十五ドルとなっていた。
  クエール夫妻が昨年度中に前納していた額は一万八千三百二ドルで、適正税額に六千十二ドル不足していたため、二百五十四ドルの罰金を徴収されることになった。
  同夫妻も一万七千三百四ドルを慈善事業に寄付していた。

  ついでながら、バーバラ大統領夫人は職業欄に「ハウスワイフ」、マリリン副大統領夫人は「ハウスワイフ/弁護士」と記載していた。レーガン前大統領のナンシー夫人は常に「ファーストレディー」と書き込んでいたというから、納税申告書には、どうやら、申告者の財政ばかりではなく、気性や個性もにじみ出てしまうものとみえる。

  ブッシュ夫妻は、連邦選挙運動資金に一ドルずつを寄付していた。クエール夫妻はゼロだった。ちなみに、ブッシュ、クエール両氏が大統領選挙で使った連邦資金は四千六百万ドルに達していたという。

  大統領の納税申告がずいぶんスッキリしたものに見えるのは、疑惑の企業から自分の妻に“顧問料”として毎月三十万円が贈られていながら「知らなかった」と言い通す人物が政権党の幹事長である国を見慣れすぎたせいなのだろうか。

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