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1989年5月1日

政治とカネ


  「日本の政界は竹下首相を退陣に追い込んでしまったことにより、これまで看過されてきた愉快でない疑問に突き当たってしまった。裏金や陰の影響力というものに慣れ親しんだ政治制度を、<リクルート>事件をきっかけに、日本は完全に変えることができるだろうか、という疑問だ」という『ニューヨーク・タイムズ』(四月二十七日)の記事を見れば、日本の政治の現状を外国人記者がどう見ているかがよく分かる。

  “政治とカネ”に関して日本は、<ロッキード>事件からほとんど学んでいなかった、とこの記事を送った記者は言っている。「現在議論されているのは、国会にカネを流し込むパイプを細くしようということで、カネを吸い込む巨大な仕組みを改めようというものではない」とみる同記者はまた、政治資金の出所公開、企業・個人献金の制限などの問題もまだ手づかずのままだ、と指摘している。
  同じ党の候補者同士が同選挙区で争い、いたずらにカネを投入し、企業の援助を受けることになってしまう現在の選挙制度を解体することや、公営選挙の実施などの抜本的な改革論をだれ一人論じないことにも同記者は疑問を抱き、「竹下首相の退陣は、ただ改革を遅らせるだけだとの皮肉な見方がすでに出ている」と書いている。

  その竹下首相の私的諮問機関『政治改革に関する有識者会議』(座長・林修三・元内閣法制局長官)が二十七日、<リクルート>疑惑と同様の事件の再発防止のための緊急措置と中長期的改革事項を合わせた“提言”をまとめ、首相に提出した。
  “提言”の骨子は@資産公開を閣僚だけではなく国会議員全員に広げ、閣僚や政務次官については「一定範囲の家族」も対象に加え、辞任時にも再度公開する A閣僚や政務次官は在任中、株式や不動産などの取り引きを自粛し、保有株式は信託銀行に信託する B冠婚葬祭への寄付を全面的に禁止し、罰則規定を新設する C<リクルート・コスモス>未公開株の売却利益は社会に還元する、などとなっている。
  また“提言”は、政治資金規正法の抜け道となっている“パーティー”について、@開催する主体や回数を制限する Aパーティー券の購入に上限を設ける B公務員などによる券のあっせんを禁止することなどを提言している。

  “提言”を見れば、「こんなことすらまだやっていなかったのか」と改めて思うことの方が多い。また、「<リクルート・コスモス>未公開株の売却利益は社会に還元する」との“子供だまし”にも似た提言には、政治資金制度改革を本気で考えているのかどうか、と首を傾げさせられてしまう。地位などを利用して手に入れたインサイダー取引まがいのカネを“還元”されてうれしがる“社会”なら、初めから改革は無理に違いない。そんなカネは不正を行った国会議員たちにくれてやってかまわないから、贈賄政治家を二度と出さない、出したら厳罰にする仕組みをどうつくるかを『有識者会議』はきちんと提言するべきだった。

  “提言”を受けて竹下首相は「次期首相にも熱意をもって抜本的政治改革に取り組んでもらうよう強くお願いしたい」と感想を述べたという。

  『ニューヨーク・タイムズ』は、竹下首相の元秘書で“金庫番”といわれた青木伊平氏の自殺に関して、同氏は「最高位に就くためにカネをむさぼり食らう候補者と献金の法的規制とのあいだで身動きができなくなった人物」だった、と述べている。竹下首相の“感想”にはどこか真実味が欠けている。「いま政治改革を行わなければ」との切実感も危機感も、そして、残念なことに、事態をここまで悪くしてしまったことへの反省も、情けないほど感じられない。

  カネに対する清潔さを選考基準に首相の後継者を人選したら、党内に適任者はたった一人しかいなかった(伊東正義・自民党総務会長)という現実を恥じる声も、自民党のどこからも聞こえてこない。

  “政治とカネ”の仕組みを変える力は、やはり、国民の側にしかないようだ。

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