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1989年5月8日

競争力の回復


  「例えば二〇一〇年のパソコン製造―。世界各地に散らばったセールス・マネジャーが顧客からの注文を受けて直ちに工場の製造ティームに連絡する〜製造ティームはロボットや人工知能を使い、個々の注文に応じた製品を設計し、製造する〜注文を受けてから納品までの期間は数日間という短い単位だ。
  二〇一〇年の製造技術や経営に関する環境は、こんなふうに、現存する大半の企業にとってはまるで馴染みのないものになるだろう」
  『ウォールストリート・ジャーナル』(二日)が二十年後の企業の予想環境像を描き出し、米国産業界に対し、環境の大変化に備えるよう警告した。激しくなる一方の外国企業との競争に打ち勝つためには、製造方式、経営手法に大変化が必要であるとの同紙の見方を強調した記事だった。

  この記事は、マサチューセッツ工科大学(MIT)が二日に公表した<メイド・イン・アメリカ 生産競争力の回復>と題する報告書を受けたもの。MITは同報告書の中で、米国と日本、欧州の自動車、化学、航空機、コンピューターなど八業種を調査・比較して「米国産業が競争力を維持しようとするなら、あらゆる段階で抜本的な改革を行う必要がある」とする提言を行っていたという。
  MITの米国産業に対する基本認識は「依然先頭を走ってはいるものの、スピードは遅く、間もなく他国に追い抜かれるだろう」という厳しいもの。そうした事態にならないために必要な戦略としてMITは@マネーゲームなどの資金操作による収益追求をひかえ、生産を優先する A教育を充実させて責任感のある労働者を養成する B個人主義と協調性を融合させる C外国の言葉、文化、技術を理解する D教育に投資し、将来の生産投資のために備える―の五点を挙げているそうだ。

  二十年前の一九六九年には、米国民が所有していたテレビの八二%、乗用車の八八%、工作機械の九〇%が“メイド・イン・アメリカ”だった。それが昨年は、テレビの国内生産はほとんどゼロ、自動車は市場の三〇%を外国製に奪われ、工作機械の占有率も五〇%程度に縮小していた。
  新しい産業分野である半導体の場合でも、八〇年に八五%だった米国製品の占有率は現在、一五%にまで下がっている。
  そうした状態がMITの提言の背景となっていたことは疑いない。

  『ウォールストリート・ジャーナル』は「米国製造業界が失地を回復する見込みは薄い」としている。だが、今後のために打つ手がないわけではない。産業界の多くの人々が次のような、今後改良すべき点を指摘しているという。
  <1>在庫、材料費、製造時間削減のために、生産工程の流れを改善する
  <2>設計士、技師、現場作業員、マーケティング責任者がティームとして働けるように管理職の層を薄くする
  <3>超伝導体など産業界に革命をもたらす画期的発見に挑む
  <4>世界中に供給者と顧客を獲得する

  産業界の人々の指摘にもMITの提言にも、日本の産業界がこれまで行ってきたこと以上の具体的な対策はあまり示されていないかもしれない。だが、米国産業界が“いつかは手をつけなければならないこと”に目を向け始めたことの意味は大きい。
  最近、ブッシュ大統領が「競争力」という言葉を口にする機会が増えた。一九八九年が米国の<競争力回復元年>となるかどうかに注目していたい。

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