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1989年5月15日

自民党と危機感


  十一日の『朝日新聞』が政治倫理に関する<日米共同世論調査>の結果を報じていた。

  <1>「いまの政治家は、政治献金を出してくれる企業や団体などの影響を、受けすぎると思いますか。そう思いませんか」との質問に「影響を受けすぎる」と回答した人が、日本では八六%、米国では八一%と、ともに八割を超えていた。
  <2>「政治倫理についておたずねします。あなたは、全体として、いまの国会議員(米国は<連邦上下両院議員>)に、倫理感がどの程度あると思いますか」との問いについては、日本では「まったくない」(二〇%)「あまりない」(六二%)とする否定的意見が合わせて八割を超えたのに対し、米国では「十分ある」(八%)「ある方だ」(五三%)との肯定的意見が六割を超えていた。

  この<日米共同世論調査>の際立った特徴と思われるのは上の二点だ。ここからは、政治家に対する日本の回答者の不信感、米国の回答者の信頼感が明らかになっただけではなく、<献金してくれる企業や団体の影響を受けすぎるほど受けながらも、有権者全体への倫理的責任をまっとうしようとする米議員>に対し<影響を受けると、倫理観をかなぐり捨てて、企業などのために動く日本の議員>という異なる二つの議員像が見てくるようだ。

  竹下総裁の退陣表明を受け、後継総裁選びに入っている自民党が、次期総裁就任を、頼みの綱である伊東正義総務会長に“固辞”されて途方に暮れている。伊東氏は十二日、安倍幹事長との会談のあとの自民党四役会議で、就任拒否の意向を正式に表明、再考にも応じない姿勢を示したという。
  同じ『朝日』が九日、第一面で、伊東氏の固辞の理由を紹介していた。それによると、伊東氏は<健康上の問題>に加えて「リクルート事件で高まった政治不信への自民党全体の危機意識が乏しいことを指摘」し、信頼回復のための具体策として@次期総裁をはじめ党幹部は若手から起用するA派閥を解消するB自分を含め、現在の幹部は事件の責任を取って総退陣する―などの提案を行ったという。

  第一党が政権維持能力をなくしたときは<憲政の常道>に従って政権を野党に譲るべきだとする専門家や野党などが伊東氏のこの提案に納得するとは思いにくいが、<自民党の論理>としては、この提案は当を得ていると言えよう。次回選挙で大負けしないためには、構えだけでもこの程度にしつらえて、何がしかの“自浄能力”を見せておく方がよかろう、と思えるからだ。BR>   だが、この提案を受けた安倍幹事長は「いずれの提案にも難色を示した」そうだ。@若手の登用は、心構えなどの準備が整っていないことを考えると、実際問題として難しいA派閥には弊害と同時に、人材発掘などでの効用もあるB党幹部の総退陣は現実には無理―などが理由だったらしい。
  だが、「若手の登用」に関して安倍幹事長が言う「心構え」とは何なのだろう。派閥の「弊害」はどう解消するつもりなのだろう。
  安倍氏のこの反応には<なるほど、こんなふうだったからこそ、自分の秘書にもリクルート資金が渡ったのだろう>と思わせられるに十分なほど責任感と危機感が欠けている。安倍氏が「党幹部の総退陣」の先頭を切るべき人物であることは、この点からも明白だ。

  <日米共同世論調査>で分かった「日本人の八二%が、日本の国会議員には倫理観が欠けていると考えている」という事実に対する自民党の危機感の欠如が、後継総裁の人選期間中に修正される見込みは、もうなさそうだ。<せめて米議員たち程度の信頼感を勝ち取らなければ」と日本の議員たちに思わせることができるのは、伊東氏の提案や個人的な頑張りではなく、やはり、国民の“一票の力”ということになるようだ。

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