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1989年6月19日

ミサイル開発


  米国の航空宇宙産業界がいま力を入れて開発に当たっているのは、人工知能を装備したミサイル誘導装置だ。橋やヘリコプターといった対象を、人間の目で見るのと同じように認知し、攻撃すべきか同かを装置自体が判断する“考える武器”だ。<標的自動認知システム>と呼ばれるもので、開発に成功すれば、米国航空宇宙産業界の優位は当面不動のものになるといわれている。
  だが、ここに手ごわい競争相手がいる。日本だ。
  第二次大戦後の政治的方針により、まだ武器の輸出は行っていないが、現存する電子技術を利用して日本は、ミサイル分野での研究・製造能力を急速に高めている。航空宇宙産業の分野での大国化が新たな国家目標となっていると見えるぐらいだ。

  自衛隊の次期戦闘機SFX問題では、日本が米国と対立し、最終的には日米共同開発という日本の主張が通った。このため、米軍事産業界には「日本の野心」を懸念する声が広がっている。だが、米国が本当に心配した方がいいのは、戦闘機や旅客機の製造技術より格段に進んでいる日本のミサイル開発技術だ。

  日本はすでに、米国企業と契約して、サイドワインダーやホークなどのミサイルを製造しているが、最近では独自開発の方に力を注ぎ、XAAM・3型戦術ミサイルなど数種の開発に着手している。将来、ミサイル製造能力を持った日本が、戦後の武器輸出禁止政策を維持するとは考えにくい。
  七十億ドルとされる日本の航空宇宙産業界に規模は二〇〇〇年までに、二百五十億ドルから三百億ドルに達するとみられている。米国産業の競争相手となるのは明らかだ。

  その日本が開発のための資金や資源を有効に集中させているのに対し、米航空宇宙産業界は、上位三社の主要国防受注高が全体の一四・七五%にとどまっており、分散が著しい状態だ。また、連邦の財政赤字解消のために国防費削減が実施されてからは、同業界は過剰設備と資金不足に悩ませられてもいる。

  戦術ミサイル製造費のおよそ半分は電子誘導システムに費やされる。米国でも普通に知られている<三菱重工><日産自動車><川崎重工><東芝>などが作り出す日本製ミサイルには、日本が得意とする一般用電子製品が多く使用されている。例えば、赤外線レーザーを利用したコンパクトディスクの技術は、移動する標的を追跡する技術に近似しているし、ビデオカメラなどに使われるある種の技術は、光学的に標的をとらえようとするミサイル誘導装置には欠かせないものだ。
  これらの分野で米国が大きく遅れをとっていることは明らかだ。

  日本は、米国の基本技術に自ら開発した技術をつなぎ合わせることはできても、すべてを自力で製造する能力はまだないだろう。だが、仮に、武器製造分野で日本の技術が米国をしのいでしまったら、国防総省は日本から武器を購入するだろうか。
  米軍事産業が技術上の優位性を失ったあとでも、米国は世界に対して現在の力を維持できるだろうか。
  以上は十一日の『ロサンジェルス・タイムズ』の記事を抜粋・抄訳したものだ。
  米国軍事産業界の開発努力を鼓舞することがこの記事の目的だ、と受け取るべきだろうが、自衛隊の次期戦闘機FSXの開発問題が一応の決着をみたとたんに米国の一部では早くも、このように、次の時代の武器開発問題が日本との絡みで論じられているわけだ。

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