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1989年7月17日

カナテコ無用論


  大来佐武郎(おおきた・さぶろう)氏 元外相、元対外経済担当政府代表、外務省顧問、国際大学名誉学長、内外政策研究会会長、経済学博士


大来佐武郎氏
(From:http://www.unu.edu/history/okita.html)

  「東京を刺激しようとカナテコを持ち出すのは間違いだ」という内容の小論文を大来氏が『ロサンジェルス・タイムズ』に寄稿した。
  米国がカナテコ(バール)を振りかざして、強圧的に日本の市場をこじ開けようとしていることの“誤り”を指摘する論文だ。

  大来氏の主張の要点は@日本と米国では歴史的、社会的、制度的に違いがあるA日本は過渡期にあり、大きく変化しているところだ、という点を米国は理解すべきだ、というところにある。
  「日本はその経済力に見合った責任を担っていないし、将来に向けて国を進めていくための哲学や信条を欠いている」との外国からの批判について大来氏は「日本人が自国を見る見方と外国人の観察・評価の間のギャップ」に過ぎないとの考えを示し、「日本が豊かな産業国となってからまだ期間が短い」ことを強調、さらに、現在日米間に生じている問題についても「日本の在り方がおかしいのではなく、日本の発展段階が異なっていることが原因だ」と主張している。
  日本は欧米などの国際産業社会に「遅れて参加した国」であり、国内の事情も当然、欧米諸国とは違う、という論だ。新興工業経済地域(NIES)や発展途上国と先進工業国との問題解決の際にもこの見方は転用されるべきだと大来氏は言う。

  ハインズ上院議員(共和・ペンシルベニア州)は十一日、日米貿易不均衡問題に関するCNNテレビのインタビューに答えて「日本は(世界共通のルールとは)別のルールで競争している」と指摘、貿易障壁除去のため米国側は日本に「われわれと同じように行動し、日本的なやり方をやめてほしい、と訴えているのだ」と述べた。
  日米間の考えの隔たりは相変わらず深い。

  ハインズ上院議員がいう「われわれ」が米国やカナダ、西欧諸国を指していることは間違いない。
  それぞれ別に示された日米二つの考えを重ねて読むと、同上議の発言はあたかも、先進工業社会に「遅れて参加した国」であることをいつまでも強調する日本に苛立ってなされたもののように見える。「発展段階の違い」を主張すること自体が貿易障壁だと述べているようにも聞こえる。その「違い」をわきまえたうえで、なお、日本を「先進国クラブ」の正会員にするまでは“カナテコ”を振り上げてでも説得をつづけようという意思も感じられる。

  大来氏の論文は、その“カナテコ”を米国人に持たせまいとして寄稿されたものだが、これまでに何度も繰り返されたあげく、多くの米国人には無効だということがすでに明らかになっているあの“日本特殊事情”論の範疇を超えていない。

  <小糸製作所>の筆頭株主になったものの、経営参加を同社経営陣に拒否されている投資家、ブーン・ピケンズ氏は十一日、上院の公聴会で証言し、「大株主の正当な権利である役員派遣の申し入れを、<信頼関係が確立されていない>ことを理由に小糸側が拒んでいるのは不当であり、米国では考えられないことだ」と述べ、更に、米国人投資家が信用できないとする日本人を米側が一方的に信頼して、米国企業への経営参加を認める必要はないのではないか、との考えを表明した。

  日本の急激な変化をどう強調してみても、大来氏の論では、ピケンズ氏を納得させられそうにはない。

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