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1989年7月24日

逆風と追い風


  『時事通信』は参院選直前となった二十日、同社が前日独自に調査した参院選・各党獲得議席数予測を発表した。この調査によると、消費税・リクルート事件・農業問題・宇野首相の女性スキャンダルという“逆風”に対する防衛策をとるのが精一杯の自民党が、参院での過半数確保に必要な五十四議席はおろか、四十議席にも届かない状況に追い込まれているのに対し、“野党第一党”の看板に吹き集まる“追い風”に乗って社会党は、改選前の二十二議席を(推薦を含めて)倍増させる勢いだという。
  東京都議会議員選挙で見られた自民党離れの現象が参院選まで持ち越されたようだ。

  『ロサンジェルス・タイムズ』のサム・ジェームソン記者が二十日の同紙に、投票日前のそんな雰囲気を“保守王国”の福島から報告していた。
  同記者はまず「土井たか子氏が女性として初めて大政党の党首となった三年前には不可能と見られていたことが、いま可能になりそうな気配だ」と伝えた。「国政選挙で社会党が自民党以上の議席数を獲得すれば、これは初めてのこと。国会両院の一方を自民党が失ったことは、両党が現在の形で政界に出揃った一九五五年以来なかったことだ」


土井たか子氏
(From:http://peaceact.jca.apc.org/news/20020121.html)

  福島遊説中の土井委員長にジェームソン記者が見たのは、社会主義的な同党の主張を退け、女性を相手に“反乱”を呼びかける姿だった。―そして、その、土井委員長のやり方は成功していた。
  「十九日、福島市内のデパートの前には、同委員長の演説を聞こうと、約三千人の有権者が詰め掛けていた。委員長が遊説用のヴァン型車の屋根に上がると、群衆は委員長に向かって手を振りながら、大声で、叫ぶように声援を送った。自民党の公約違反、汚職、傲慢に抗して今こそ立ち上がるときだ、との土井委員長の言葉に、群集は夢中になって聞き入っていた」という。

  同じ日、宇野首相は大阪でこの選挙中初の遊説を実現したが、土井委員長との違いは明らかだった。自民党支持者を対象とした屋内演説会の会場に到着した宇野首相を表で迎えたのは「性をカネで買いながら何の釈明もしない首相に怒りの声を上げる数百人の女性たち」だった。
  ジェームソン記者は記事の中で、選挙運動期間中の福島の熱気を見れば、今回の参院選での社会党の勝利を土井委員長が確信するのは当然だった、と伝えていた。

  そして、結果が明らかになった。
  非改選議席を含めると、自民党が改選前の一三九議席から三〇議席減らして一〇九議席になったのに対し、社会党は二四議席増やして六七議席、同党推薦などを含めると八六議席になった。

  「日本を統治できるのは自民党だけだ」との考えがある。土井委員長は選挙中、これを「三十四年間にわたる政権独占により自民党内に作り出された“傲慢さ”の一例」と退け、「自民党が負けると日本の政局は大混乱する」との保守陣営の主張をきっぱりと否定していた。
  もちろん、この選挙で社会党が一定程度の“勝利”を収めたからといって、直ちに政権が移動するわけではない。だが、参院選での議席数増大後の社会党が何をどう動かしていくかについては、かつてない大きさの注目が同党に集まることは間違いない。

  福島でのジェームソン記者の観察が正しかったとすれば、社会党は“女性の反乱”に支えられて勝利したことになる。だが、その女性たちは、すぐに“反乱”の熱から冷め、<消費税廃止後の対案はあるのか><コメ自由化などの深刻な農業問題を解決する具体的方策は持っているのか>などと、社会党にも厳しい視線を向けることになるだろう。

  社会党への“追い風”はすでにやんでいる。
  現実的政治力を持つ野党が日本にも存在しえることを証明することが、社会党の最初の仕事だ。へたに先走って政権構想などを打ち上げて、野党同士が抗争、足の引っ張り合いに走るようなことになれば、今回同党に投票した有権者たちをたちまち失望させることになる。

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