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1989年7月27日

保守二党論


  参議院議員選挙で自民党が惨敗したあとの日本で財界人が積極的に口にしている“公式見解”ともいえる意見は「残念だ。大きなショックを受けた」(斎藤英四郎・経済団体連合会会長)や「深刻に受け止めている」(石原俊・経済同友会代表幹事)などというものだろう。「政局の混迷から円安、インフレ、引き締め、不況と進む心配もないとは言えない。政策立案の機動力が後退し、日米の通商摩擦がさらに激化する恐れも強い」(米倉功・伊藤忠商事社長)といった憂慮表明もそうだ。


 斎藤英四郎氏
(From:http://www.handball.jp/jha/oshirase/fufou.htm)

  一方、自民党敗北を当然視し、財界人としてのホンネを素直に吐露した発言も少なくなかった。
  典型的な例の一つは、山本卓真・富士通社長の「自民党敗北は金権体質・民意軽視の政治など、政治不信に対する国民の厳しい批判の結果だ」という意見だ。<リクルート>スキャンダルと消費税のごり押しで今回審議を空転させ、政治に空白を生じさせた自民党にあいそを尽かせかけた一部財界人の本音がうかがえる。
  宮崎輝・日本繊維産業連盟会長(旭化成工業会長)の「衆参両院とも一党が多数を占めるのは議会制度としては異常であり、今回の選挙結果は、議会民主主義の第一歩を踏み出したもの」という見方も、原則論を述べながら一方で、長期政権に安住して緊張感を失った自民党政治を厳しく批判している。同氏はさらに「すみやかに衆議院を解散し国民の審判を仰ぐべきだ」と述べ、あわせて、行政改革の必要性も強調している。

  この参院選の結果を見て、一部の財界人は本気で「政権担当能力のある二大政党」(山本氏)の実現に備え始めたようだ。
  基本的には、「民間企業は競争があるからうまくいっている。竹下政権以降、派閥が仲良しクラブになってしまい、競争関係が失われた。派閥間の競争を活性化すべきだ」(古本次郎・旭硝子社長)といった、旧態依然とした政治認識を超えないものの、なお、政治に新しい潮流を求める意見が出始めたことの意味は大きい。
  その潮流の色合いを鮮明にして「二大政党待望論」に正面きって触れたのは石原俊・経済同友会代表幹事だ。同氏は「自由主義経済を守り、政策本位による別派行動であれば、きちんと協力する」と述べて、自民とから分かれて新党を結成する動きがあれば、積極的に支援する姿勢を打ち出したのだ。同氏は今年四月には、経済団体幹部としては初めて、社会党など野党四党の書記長、政策審議会長と話し合いを行うなど、政界の流れの先を読むことに積極的なことで知られている。その石原氏が「自民党に代わる保守の受け皿がないのは日本国民として不幸だ」(山城彬成・NKK社長)という日本の現状の改善を本気で考える意向を示したのだ。―財界一部にあるクールな見方を自民党に示して同党に党としての自浄能力の獲得を迫る、という以上の意味を持つことは間違いない。
  国際経済社会で、大小の危機に見舞われながら、それらを何とかしのいできた財界が、政権交代の危機を実感として経験したことがない自民党の現状認識の甘さに苛立つ姿がここに見えるようだ。

  自民党の対応しだいでは、次の衆院選後、その“二大政党”の一方が―一部財界人の思惑とは異なって―まだ政権担当能力が試されたことがない“野党連合”となることも十分に考えられる。
  財界人の危機感は深い。“保守二党論”はその危機感の正直な表れにほかならない。

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