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1989年8月7日

代替財源論争


  消費税廃止を唱えた社会党が参院選で勝利を収めた結果、同税廃止後の<代替財源>をどうするかについて、同党の対応に注目が集まっている。
  消費税実施による増収は五兆九千億円と見積もられていた。社会党は、消費税廃止法案を次の国会に提出することを選挙中に公約しており、その国会審議では自民党が代替財源の問題を突くことは明らかだ。社会党にとっては、選挙大勝後の最初の試練となる。

  消費税が廃止された場合の五兆九千億円の捻出方法として、社会党はこれまでに@物品税の一部復活(八千億円)A株式売却益課税強化(七千億円)B法人税率の引き下げ延期C税の自然増収(三兆円)―などを挙げて、福祉などの面で国民生活に支障が出ることはないと主張している。
  自民党が最も手厳しく批判しているのは、社会党案が「税の自然増収」を期待している点だ。「景気に左右されること(自然増収)を政策の中に入れることはできない」(村田敬次郎・自民党政務調査会長)との批判は当然だろう。
  来年度から三七・五%に引き下げられることになっている法人税率を現行四〇%に据え置くとの社会党の考えについても自民党は、企業課税の強化は資本の海外逃亡につながると警告している。

  国会審議で初めて防戦に回ることになる社会党は、株式売却益への日本の課税は諸外国に比べて低すぎるなどと、部分的には反論しているものの、代替財源案は「当面のもの」だとし、「ニ、三年の時間を稼ぎ、税制改革をやり直そう」(伊藤茂・政策審議会長)と訴えていく以外には、これといった方針を示していない。
  少なくとも、税制改革の具体的計画ぐらいは早急に明確化しないと、社会党は支持者を逃すことになろう。<土井委員長人気><マドンナ旋風>などに有権者がいつまでもつきあうとは考えにくい。政策立案と行政の能力をこれまで正面から問われたことがない社会党に対して、有権者がいくらかの寛容さを見せたとしても、日常生活が圧迫されそうになれば、それも長つづきはしないだろう。

  週刊誌『ニューズウィーク』のインタビューで、政策を“非現実的だ”と批判された社会党の土井委員長は、それに答えて「政治で忘れてならないのはビジョンだ。ビジョンなき政治は魂のない政治だ」と述べている。間違いではあるまいが、「ビジョンだけでは政治は動かせない」といった批判が集まることは明らかだ。

  参院選では、自民党が過半数を割ったというにすぎず、それで社会党政権がすぐに生まれるというわけではないのだから、国民は政治の流れをゆっくり眺めていればいい、という冷静な見方もある。だが、社会党自身にはそんなゆとりはない。現実的政治能力を持ち合わせているということを、あらゆる機会に着実に証明していかなければ、次の衆院選での“善戦”さえ覚束なくなる。

  <リクルート>事件は、自民党による一党長期支配を終了させるべき時期が来ていることを示していた。消費税法の成立過程からもそれが分かった。

  参院選前は「消費税を廃止しよう」と言うだけでよかった野党第一党、社会党がいま、代替財源をどうするかについて、かつてない真剣さで考えさせられている―。日本の民主主義の発展にとって実に良いことだ。
  今回の参院選の勝利者が実は、社会党ではなく、日本国民だったことがここからも見えてくる。その国民が、国会の代替財源論争に注目している。

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