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1989年9月5日

橋本人気


  時事通信社の八月の月例世論調査で、発足直後の海部内閣の支持率が二七・五%だったことが分かった。歴代内閣の発足時との比較では、前の宇野内閣に次ぐ悪い結果だったという。
  不支持率の方も、三三・九%と高く、これも宇野内閣につぐものだった。“清新”の看板を掲げ、首相自身の若さを売りものにしてスタートした海部内閣だが、次の衆院選挙用にクビを挿げ替えられただけと見抜かれたためか、国民の大きな支持を集めて政局運営に乗り出すというわけにはいかなかった。
  ただ、自民党への支持率は対前月比で六・二ポイント上昇し、二六・五%に回復していた。時事通信社は「前首相(党総裁)退陣表明後の後継選びがある程度国民に受け入れられたことを示している」と分析している。

  その“後継選び”で中心になって動いた橋本竜太郎大蔵大臣(当時、自民党幹事長)が最近、政府の「新税制実施円滑化推進本部」が始めた消費税キャンペーンの顔として、写真で新聞広告に登場している。『朝日新聞』で見た橋本蔵相の表情は、むしろ気弱な人物を思わせるほど柔和な笑みを浮かべ、「もう一度、お話させてください。消費税について」と国民に語りかけている。
  先の参院選挙での自民党惨敗の最大の原因とされ、秋の国会では、与野党の勢力が逆転した参議院を中心に激論が交わされることが確実な消費税の宣伝に、宇野、海部とつづいた二度の後継選びと、さらには、首相“不在”の参院選挙中の活躍で“男を上げた”橋本蔵相の人気を利用しようという意図が丸出しになった広告だ。

  政府・自民党の訴えの要点は次のようにまとめてある。
  「これからの高齢化社会を、豊かで活力あるものにするために。じっくり考えていただきたいのです。明日の日本のこと、消費税のこと」
  広告を見て第一に分かることは、高齢化社会―高負担―消費税と、論理を一本通すことに急なあまり、その他の税収方法を考慮していないように見えることだ。国民は、戦後の政治を自民党がほぼ独占してきたことを知っている。高齢化社会の到来は早くから予想されており、長期政権党である自民党には、高齢化社会を支えるための税制上の手当てが多様な方法で可能だったことも知っている。ここに来て「もう消費税しかない」というキャンペーンを急に展開されても国民がすぐに納得しないのは当然だろう。他にも方法がありはしないかとの国民の疑問に、この広告はまったく答えていない。
  もう一点、この広告の効果を減じているのは、消費税を強硬施行したことへの反省がみられないことだ。参院選での敗北の原因が十分に分析されたとは思いにくい。国民は政府と自民党の有無を言わせぬ政治手法に“否”の意思表示を行ったはずだ。ごまかせると考えているとしたら、見当違いだろう。
  広告にみられる橋本蔵相の笑みの陰にはまだ、自民党の傲慢さが見え隠れしている。

  今年五月、竹下元首相の退陣表明のあと、若手登用の可能性を問われた橋本幹事長代理(当時)は「国民受けを考えれば、河野洋平、石原慎太郎ら、さらに若手実力者を閣僚に抜擢して清新さを強調することはできる。しかし、(首相として)国際社会には通用しない」(『週刊朝日』)と述べていた。
  後継総裁選びの中心人物であった幹事長代理が、自民党若手政治家は「国際社会には通用しない」と発言してからわずか三か月後、自民党はその“若手”の一人である海部俊樹氏を首相として米国に送り込んできた。政権の最重要ポストである蔵相に当の橋本氏がおさまってのことだ。

  自民党の政治家が「国際社会に通用しない」としたら、その理由はどうやら、その政治家が“若手”だからではなく、自民党そのものの、自ら省みることをしない、無節操でご都合主義的な体質が嫌われるから、ではないか―。
  自民党の国内での支持率も、本格的な回復は当分望めそうにない。

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