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1989年9月25日

対ソ静観方針


  『ロサンジェルス・タイムズ』が二十一日、ペレストロイカ(変革・再編)を推進しようとしているソ連のゴルバチョフ最高会議議長(共産党書記長)の能力にブッシュ政府が悲観的な見方ををとるようになってきた、と報じた。ベーカー国務長官が最近行った記者会見で、ペレストロイカの成功は願っているが、米国がそれを助けることはできない、と発言したことが例証の一つとされている。
  ウィリアム・ウェブスター中央情報局(CIA)長官は「ゴルバチョフ議長に残されている時間はいよいよ少なくなってきている」との表現で、民主化を求める声とそれに反対する保守派の妨害にはさまれて、同議長がしだいに身動きできなくなっている状況をブッシュ政府が注目していることを示唆している。

  ブッシュ大統領は二十一日、ホワイトハウスでシェワルナゼ・ソ連外相と会談した。同外相はゴルバチョフ議長の親書を手渡し、同議長が東西関係の戦略的安定、軍縮問題での相互<検証>の重要性についてブッシュ大統領の見解に同意するとともに、化学兵器の禁止に向けて努力することでも大統領に賛意を表明することを伝えたが、ブッシュ大統領は慎重な対応に終始し、次回の米ソ首脳会談開催の日程決定は、二十二日から二日間ワイオミング州で開かれるベーカー国務長官とシェワルナゼ外相の米ソ外相会談で行おうと提案するにとどまった。
  そのべーカー長官は、外相会談の前に、ペレストロイカの先行きに不安感を表明し、「分別を保ちながら」対ソ関係を継続すると述べていた。ゴルバチョフ議長のソ連国内での成功を米政府が必ずしも信じてはいないことを示す発言だった。対ソ静観方針の表明ともいえるものだった。

  米国にとっても、ソ連のペレストロイカは望むところだ。だが、世界戦略に重大な変更を加える軍縮条約締結の約束を、ゴルバチョフ議長を助けるためにといって安易に行うわけにはいかない。ブッシュ政府はまだ、ゴルバチョフ議長が失脚する可能性を考慮に入れて対ソ政策を検討している段階にある。


ゴルバチョフ氏
(From:http://www.fundokin.co.jp/yaeko/episode/22/vol22.html)

  一方、ソ連共産党中央委員会総会は二十日、保守派の長老シチェルビツキ・ウクライナ共和国党第一書記、チェブリコフ党書記(前KGB議長)の二人とニコノフ党書記、計三人を政治局員から解任し、同時に、ペレストロイカ支持派二人を政局員に抜擢した。『朝日新聞』(二十二日)はこれを、一九八五年のゴルバチョフ政権誕生以来の「最も大幅で重要な人事刷新であり、ゴルバチョフ共産党書記長(最高会議議長)を中心とする改革派の足場がさらに、固まったといえる」と報じている。

  二日間の日米外相会議で米国は結局、戦略核削減交渉と米国の戦略防衛構想(SDI)を切り離すという大幅な譲歩をソ連側から引き出した。戦略核条約締結の前でも兵器の相互検証を行うことでも両国は合意に達した。ベーカー長官は今回の会談を「まれにみる建設的な会議だった」と自画自賛している。

  ソ連側から一方的な譲歩を勝ち取ったという意味では、ブッシュ政府の対ソ静観方針は成功だったといえよう。来年の晩春から初夏にかけての時期に米国で米ソ首脳会談が開かれることも決まった。ブッシュ大統領はそれまでに、静観方針に代わる新たな方針を固めることになる。

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