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1989年10月5日

<コロンビア映画>買収


  先月三十日に発売された週刊誌『ニューズウィーク』が、米国人の日本観に関する世論調査の結果を掲載していた。
  表紙の絵が、<コロンビア映画>のシンボルマークである<女神像>に日本髪を結わせ、和服を着せ、いかにもゲイシャふうに描かれていたことからも容易に推察できるように、日本企業<ソニー>による<コロンビア>買収という“ホットニュース”を受けていま、米国人が日本をどう思っているかを知ろうという調査だった。

  調査は先月二十八、二十九の両日、全米六百人の成人を対象に行われたものだ。
  まず、<日本の経済力とソ連の軍事力とでは、どちらにより大きな脅威を感じるか>という質問については、五二%が<日本だ>と回答、<ソ連>の三三%を完全に上回っていた。<日ソは同程度に脅威だ>との回答も六%あったが、ゴルバチョフ・ソ連最高会議議長(共産党書記長)が強力に推進しているペレストロイカ(再編・改革)ほどに米国人に好印象を与える政策が日本にないためか、日ソ両国に対する評価には大きな差が出てしまった。

  日本の対米貿易の公正さについては、五二%が<不公正だ>と考えていることが分かった。<公正だ>はわずかに二四%だけだった。
  ただ、米国の貿易赤字の原因については、<日本の不公正さが主因>とした回答が三一%にとどまっていたのに対し、<品質競争で米製品が日本製品に負けているため>と見る人は四二%に上っていた。事態を冷静に捉えようとする米国人も少なくないことが示されたといえよう。
  とはいえ、<日本が対米貿易慣行を公正にしない場合、日本製品のボイコットを真剣に考えるべきだ>とする回答も六〇%に達していた。

  <日本企業による米国の企業、不動産買収は、外国人に米経済支配を許すことになるから良くない>と考える人はさらに多く、六四%だった。これに対して、<米国に資金が流入し、仕事が増えるから良いことだ>との答えは二六%だけだった。

  <ソニー>による<コロンビア映画>買収については、調査時点で五三%がすでに聞き知っていた。初めて知った人も含めて、全体の四三%が<買収は良くない>と考えていた。<良いことだ>は一九%にすぎなかった。
  <ソニー>の盛田昭夫会長は三日、東京で記者会見し、<コロンビア映画>買収で米国内に反発があることについて、「米国の映画会社を外国人が買った例は過去にもあるのに、日本の企業のときだけ、こうした批判が出たのは非情に残念だ」と述べた。反発の原因について同会長は「日米間の貿易不均衡の問題がなかなか解決しないこともあって、(<ソニー>による買収が)非情に情緒的、政治的に取り上げられた」と受け取っているという。
  だが、<ソニー>は昨年<CBSレコード>を二十億ドルで買収したところだ。<過去にも例がある>とされた<外国人による米映画会社買収>とは同じではないのではないか。「またか」という印象を多くの米国人が持ったとしても責められないかもしれない。

  市川猿之助による歌舞伎の米国公演があった。なかなか好評だったようだ。歌舞伎人気は日本でも衰えていないという。―それに目をつけて、仮に<ウォルト・ディズニー>が<松竹>と話をつけ、歌舞伎をそっくり買収したとしたら。
  玉三郎がミッキーマウスの格好をして歌舞伎座で「娘道成寺」を踊っている絵を表紙にする日本の週刊誌はあるまいが、<客席にポップコーンの匂いがあふれて、「忠臣蔵」や」勧進帳」の雰囲気がこわれるのではないか>と憂える日本人はいるのではないか。
  つまりは、歌舞伎や大相撲が米企業に買収されたときのことを想定すれば、<コロンビア映画>買収に対する米国人の反発を「情緒的だ」といって軽視しない方がいいのではないか、ということだ。歌舞伎や大相撲が日本人とって大事であると同様に、映画製作が米国人にとって重要であるとしたら、なおさらのことだ。
  『ニューズウィーク』は、<ソニー>が「米国の魂の一部を買収した」と報じていた。

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