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1989年10月10日

ひとり歩き


  『ニューヨーク・タイムズ』の紙上で「米国はなぜ日本を放っておけないのか」という興味深い自問から日本論を始めた人たちがいる。議会図書館のロナルド・モース氏と外交問題専門家のアラン・トネルソン氏の二人だ。ともに、日本問題には詳しいという。

  「際限のない貿易論争、米国経済の弱体化と日本の技術的優越とに対する恐れ、米国側からの苦情への日本の不快感が圧力となって、米国はやっと日本との関係を考え直そうとしている」と認識する二人は、この際、米国は「戦略的、政治的、さらには経済的に日本に自分の二本の足で立ってもらう」ことを考えてもらうべきではないか、と提案している。「もし、米国が日本を従属国のように扱いつづけるなら、日本との避け難い破局が一層早まり、より始末の悪いものになってしまうだろう」と思うからだ。

  同じ観点から二人は、日米経済を統合して太平洋を横断する一大経済力を築こうという新政策と、逆に、日本の経済力を封じ込めようという政策とをともに、第二次世界大戦で日本を破った日から米国政府がとりつづけてきた対日戦略と変わらないものと断じ、二つの政策がたとえ成功したとしても、日米関係は現状以上のものにはならない、と見ている。

  日米間には現在、いくつもの問題が横たわっている。だが、二人には「戦後の日本国憲法が軍事支出を厳しく制限しているのは、ワシントンの主張を日本が受け入れた結果」だし、「日本が高度に官僚化された変質的重商主義国家に変貌したのも、米国が与えた青写真に日本が従ったからだ」と見えるという。日本を今日のような「経済的怪物で同時に政治的小人」にしてしまったのは米国自身だ、というわけだ。

  この辺りで、米国は自分自身のことを考えるべきではないか―。「米国がいま第一にやるべきことは、経済の再活性化だ」と二人は強調している。そのためには「主要同盟諸国への巨大な援助を削減すること」が是非とも必要だ、という。
  一方、「日本を切り離すのは戦略的に危険だ」との考えが米国にはある。「仮に戦略的にひとり立ちした場合、日本はますます米国の希望に応えなくなり、これまで経済的にそうであったと同様に、軍事的、政治的にも利己的で攻撃的な国になるかもしれない」との警戒だ。「一九三〇年代の日本がそうであったように―」
  そのため 、米国が対日軍事援助を中止すれば「アジア全域で軍備拡張競争が始まるのは間違いない」と考える米国人も多いという。

  だが、日本が東アジア諸国とのあいだで経済的結びつきを強めているのも事実だ。アジアの平和と安定は日本にとってもことのほか重要なのだ。このことから、この二人の日本専門家は、この地域で日本が再び軍事大国として君臨する可能性は低い、と見ている。

  ニクソン大統領時代から米国は、中国を対ソ牽制戦略の中に位置づけ、重視してきた。だが、たとえ日米安保条約がなくなったとしても、民主的で安定した、強力な日本にソ連牽制を任せる方が、最近不安定さを見せつけた中国に今後も頼りつづけるよりは理にかなっているのではないか、と二人は考えている。「日本がたとえ核武装をしても」だ。
  実際、「長期的に見れば、米国に選択の余地はない」と二人は言う。「米国が何を言い、何をしたところで、日本は自ら望めばいくらでも強力になるだろう」と思うからだ。しかも、「万一、日本が危険な方のコースを進むようになったとしても、何かと面倒な問題を起こしがちなこの同盟国を切り離しておく方が、東京から仕掛けられてくる挑戦に有利に対応できる」という現実的利点もある、と二人は考えている。

  「レット・ジャパン・ビー・ジャパン」
  米国が採用すべき対日政策はこれだ、とこの論文の中で、二人は力説している。

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