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1989年10月17日

盛田会長の信用


  「<ソニー>の創始者、現会長として名声の高い盛田昭夫氏が一つ、判断の誤りを犯してしまった」と『ロサンジェルス・タイムズ』(十月十一日)に書いているのはジェイムズ・フラニガン記者だ。同会長が自民党の石原慎太郎代議士と“共著”した『NOと言える日本』の中で行った発言が「誤り」だっというわけだ。

  フラニガン記者は最初に、石原氏の方を問題にした。特に、石原氏が「仮に、例えば、日本が (半導体)チップの対米販売をやめてソ連に売るようになったら、全体の軍事的均衡は逆転することになろう」などと述べて、日本の技術力の優位を誇示している部分を取り上げ、同代議士の指摘を「もちろん真実ではない」としたうえで、「これがこの奇妙な本の特徴となっている」と指摘、「石原氏は<不正直な米国>などの表現でしばしば我を忘れたように米国・米国人嫌いの感情をあらわにしている」と書いている。
  とはいえ、フラニガン記者は石原氏の発言はそれほど重視してはいない。「どこの国にも、視野の狭い愛国主義的な政治家はいるものだし、石原氏の著述が日本以外で注目を集めるとは思わない」からだ。だが、盛田氏がこの本の共著者だったことで本自体が有名になってしまった。部分訳が議会に持ち込まれ、ハリウッドのエンターテインメント社会や経済界にコピーが出回る状況となった。
  フラニガン記者は、盛田氏が「工業界のだらしなさ、投資における短期的視野などについて米国産業を批判した」ことについてはむしろ、国内経済を整備し直さないと、米国はただ軽蔑を受けるだけの国になってしまうとの警告だ、と受け取り、「この観点からは、盛田、石原氏の本には良い面もあろう」と見ている。だが、盛田氏が日本の読者に向かって「米国は固有の多くの欠点を持っており、われわれは継続して、米国がこれらの点に目を向けるよう仕向けていかなければならない」と述べたことについては、いささか傲慢な発言だと感じたようだ。また、米国のレイオフ慣行に触れて盛田氏が「米国は南アフリカやアフガニスタンの人権無視を責めるが、同じ基準を自国の労働者にも適用しているのだろうか」と疑問を呈していることに対しても、「直接にではないにしろ、南アに製品を売っている」<ソニー>の会長に、このような発言の資格があるのか、と露骨な反発を示し、「明らかなことは、<ソニー>の会長が、ことの是非を判断してではなく、つむじを曲げて物を言ったということだ」と断じている。


盛田昭夫氏
(From:http://www2s.biglobe.ne.jp/~Fujiki/pool/morita.html)

  日本の産業界では国際派の代表格と見なされ、日米間に不和が生じた際には「これまで常に、解決策を見出す側にいた盛田氏がいま、問題を発生させる側にいるように見えるのは悲しむべきことだ」と、この日本通の記者は記事を結んでいる。

  盛田氏は十一日、東京で開かれたシンポジウムで、<コロンビア映画>買収について発言、「米国の魂を買ったと非難するならば、売った方にも問題がある」と述べ、さらに、「英国やオランダなら問題にならず、日本のみたたかれるのは、日本人を異邦人とみているからだ」とし、投資摩擦の根源は米側にあるとの考えを再び強調したという。

  農業を含め、産業構造や経済慣行が欧米諸国とは異なると訴え、「異邦人」ぶりを自ら強調しながら、市場開放を一日延ばしに遅らせようとしてきた国は果たしてどこだったか―。

  フラニガン記者の記事の見出しは「米国たたきの本を書いて信用を失った<ソニー>の会長」というものだった。

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