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1989年10月25日

米人重役


  日系企業で働く米人重役は社内で計画立案、意思決定から外され、企業の戦略情報もほとんど与えられていない―などとする調査結果をミシガン大学教授を中心としたグループが発表した。現在の地位以上に昇進する機会が米人重役には少なく、米人社員を昇進させるためのプログラムに日系企業が時間と手間をほとんどかけていないことも併せて明らかにされた。
  この調査に参加したのは同大学のパシク教授と日本の経営学教授数名などだ。

  ある米人重役は匿名を条件に「日本人同僚の多くにとって(彼らがよく口にする)“地球化”とは、最適な人物を世界のどこかの最適なポストに就けるという意味なのだが、この場合の“最適な人物”とは日本人のことなのだ」と述べたという。   日系企業で働く米人重役の平均的な意見なのかもしれない。

  パシク教授は一方で、米人重役側にも問題があると指摘している。調査対象となった米人重役のおよそ一〇%しか日本語を話さず、しかも多くが日本語学習は重要ではないと考えていることがそうだ。
  同教授は、調査結果を発表した記者会見で、米人社員が昇進機会を拡大するのに日本語習得は欠かせない条件だと強調している。米人社員への権限と責任の委譲が進んだ企業の方が米国市場でいい成績を上げていることが調査で明らかになっているからだ。米国市場での経営計画や製品開発に関して地元重役の考えを多く取り入れる方が利益性が高くなることも分かったという。
  なるほど、日本語を話すことで米人重役が日系企業への貢献度を増す可能性は高そうだ。

  この調査ではまた、仕事を十分に任せられていない米人重役がその状況を甘んじて受け入れている実態も明らかになった。日系企業が採用する米人重役の多くが、職に就いていることで満足している高齢者か、日本企業で働いた経験を踏み台にして米企業に転出したい青年であることがその原因だと見られている。

  パシク教授らは、日系企業がさまざまな形で米人重役の昇進の道を閉ざしていることが、特に、若い米人社員の会社への忠誠心を希薄にしているのだという。その忠誠心のなさが、日系企業が抱く米人ビジネスマン像をまたゆがんだものにしてしまう―。
  米国で数年間働いてきたある日本人重役は、大きな米企業で働く米人重役を見て、その質の高さに驚くと同時に感銘を受けたことを告白し、「わたしの会社の米人重役よりよく働いている」と語ったという。

  この調査に協力した人材派遣会社の重役の一人は、日本企業は、米国や世界への進出が進めば進むほど、才能ある米人を獲得するために、制度をいっそう開放的なものにする必要があると力説しているそうだ。「これまでの慣行を変えなければ、最近採用を始めた若い、前途ある大卒者たちにも日本企業は逃げられることになろう」からだ。

  日本企業が初めから昇進機会を与えないから米人重役が忠誠心をなくしていくのか、米人重役にもともと忠誠心がないから日本企業が彼らに昇進の機会を与えないのかについて、<どちらが先か>をいまさら言い争うのは愚かなことに思える。日本企業による米人重役の積極的登用は、日米がそれぞれの経済に新たなエネルギーを注入、吸収し合うという意味で、いよいよ避けられなくなっているのだから。

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