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1989年11月17日

シンタロウ・ゲッパート


  『ウォールストリート・ジャーナル』が十四日、再び石原新太郎代議士を紙面に登場させた。同代議士の<日米経済摩擦・人種主因論>が一部日本人に受け入れられていることを警告した今月七日の記事につづくもので、今度は論説欄での扱いだ。「シンタロウ・ゲッパート」という表題がつけられていた。

  石原氏は東京二区選出の自由民主党衆議院議員。現外務委員で、これまでに運輸相、党広報委員、党財務委員長、党総務、環境庁長官を務めている。八日には、超派閥の政策集団<惣明の会>を発足させたばかりだ。よく知られているように、著名な作家でもある。

  表題の中の<ゲッパート>とは、保護主義強硬論で名をなしている、あのリチャード・ゲッパート民主党下院院内総務のことだ。一九八七年に包括貿易法下院案を、日本の対米黒字削減を主眼とした<一九八七年 貿易・国際経済政策改革法>(ゲッパート条項)としてまとめて注目された人物だ。八八年の大統領選挙の民主党予備選では候補の一人として名乗りをあげ、日本の対米貿易黒字をやり玉に挙げて保護主義的な貿易政策を論じ、やがて<日本バッシング>議員の代表とみなされるようになった。

  ゲッパート氏と並べられるまで米国で石原氏を有名にしたのは、<ソニー>の盛田会長と共著した『NOと言える日本』という小冊子の中で同氏が展開した人種主義的な意見だ。『ウォールストリート』の論説は石原氏を「人種という単語を使えばすべてが説明できると考える」人物だと決めつけ、「日米摩擦は人種的偏見という土壌に根ざしている」「米国人の人種的偏見は、近代が米国人を含む白人によって創造されたとする文化的信念に基づいている」などという同氏の発言をその根拠として挙げている。
  <米国バッシング>の中心人物とみなされるようになった石原氏のこうした発言の内容について、この論説は、日本と米国のどちらが人種問題に寛容かはインドシナ難民の受け入れ人数を比較すれば分かることだと述べて、特に議論する気はないようだ。

  だが、米国の政治家が外国攻撃を行えば、一部の米国人が喜ぶ。事情は日本でもおなじだ。いずれにしても、相手の国に、勇んでやり返そうという人物が現れ、それを応援する勢力が力を強める。
  石原氏とゲッパート氏の関係がそうだ。発言するたびに両者の“敵対関係”が強まっていくように見える―。

  いや、はたしてそうだろうか。
  たがいが「醜い民族・国家主義」を煽り合いながら、実は「消費者ではなく、生産者のために、競争を制限しようとしているという点で、二つの国の保護主義者同士はいつの間にか同盟している」のだと論説は言っている。
  つまり、「日本と同様に米国も保護主義を採用すべきだと主張するたびに、ゲッパート氏は石原氏のような日本の“本国保護主義者”を励ましていることになる」というわけだ。
  そうした関係がつづく間は、感情的対立だけだ浮き彫りにされ、消費者の利益などはまるで考慮されることがない―。石原氏とゲッパート氏が肩を並べて論じられた理由がそこにある。
  “シンタロウ・ゲッパート”氏、―論説での評判は芳しくない。

  カーター政権時代の米通商代表部代表、ロバート・ストラウス氏は十五日に行った講演で、保護主義の仮面をかぶったナショナリズムの高まりを警告して「とりわけ人種偏見を背景にしたものは極めて危険だ」と述べている。

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