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1989年11月27日

日本政府からの注文


  「米国は隔離された世界の二流のオリンピックで満足しているより、王者たちと対抗して一緒に走るべきだ」と英国の経済誌『エコノミスト』が最新号の社説で述べているそうだ。ここでいう“王者”が日本を指していることは言うまでもない。
  <時事通信>によると、「米国の日本恐怖症」と題されたこの社説は「日本の立場に理解を示し、米国の論調をたしなめた」もので、『ニューヨーク・タイムズ』『ワシントン・ポスト』などの米マスコミが「日本の市場は閉鎖されている」といった論評を展開していることに反対し、逆に「対日批判をするよりも、米国自身がまず自ら努力すべきだと主張している」という。
  日本にとっては“強い味方が現れた”というところだろう。

  「たしなめられた」側の『ニューヨーク・タイムズ』(十九日)に、スティーブン・ワイズマン記者の東京発の記事があった。この秋の日米経済協議で米側が日本に一層の市場開放を求めたことに対して、日本側が@教育改善A科学教育への投資B連邦財政赤字の解消C産業競争力の向上などを米国に要望したことを伝えたものだ。
  その中で同記者は「今回の対米批判は<米国が抱えている経済問題は産業・教育システムに関する米国自身の管理失敗が原因だ>とする日本側の見方が反映されたものと日本政府当局者は語っている」と報じる一方、対米批判の内容については「基本的要点に関しては米国でも産・学・政府がすでに論じてきたもの」で、取り立てて新しいものではない、と述べている。

  実際、日本側が米国に改善を要望したもののうち、たとえば貯蓄率の向上については、すでに通商代表部のヒルズ代表が同様の考えを表明しており、その他についても、日本の市場開放実現に寄与するものなら積極的に対処するとの意向が米政府高官から示されている。
  ただ、ワイズマン記者の目には、米国にとって改善が容易ではないと思われる要望も多い。米国の企業活動では当然となっているビジネス慣行、たとえば、重役陣が受け取る高給、短期利益の追求などに対する改善要望がそうだ。こうした慣行が投資と企業近代化を妨げる原因となっていることは知られるようになっているが、一方で、企業乗っ取りを防ぐためには必要な慣行だと広く信じられてもいるからだ。

  日本政府の対米批判・改善要望の多くが、問題の本『NOと言える日本』や<コロンビア映画>買収で米国からの批判の矢面に立たせられている観がある<ソニー>の盛田昭夫会長ら、いわゆる知米派財界・経済人の主張を後追いしたものであることは間違いない。その意味で、批判には新味が感じられないとの同記者の指摘は当然といえよう。
  とはいえ、財界人の従来の主張をなぞっただけであったにしろ、日本政府の考えが今回ほど明確に米国側に伝えられた例はあまりない。

  ワイズマン記者は、これまで非公式に囁かれていた対米批判が今回初めて、日本政府の公式見解として表明されたことの意義は大きいとし、日本政府のこの態度変更は「戦後の及び腰を日本が放棄し、外交政策で独断性を増そうとしていることを示唆している」と指摘、今後の日米交渉は従来とは異なったものになろうとの見方を示している。

  日本が『エコノミスト』が言うような“王者”となるか、ワイズマン記者が予言するような“独断性”の国で終わるかは、遠くない将来に分かる。

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