====================


1989年12月11日

米ソ協調時代へ


  地中海のマルタ共和国マルサシュロック湾の船上で今月二日と三日に開かれた米ソ首脳会談の結果、<戦略核兵器削減交渉>(STRAT)が来年六月に米国で開かれる両国首脳会議で調印され、さらに<欧州通常戦力交渉>(CFE)も来年中に妥結する見通しとなってきた。軍縮という点では「米ソが冷戦の時代に終止符を打ち、協調の時代に入ったことを世界に印象づけた」(時事通信)歴史的な進展だ。

  戦略核兵器に関する交渉ではすでに、レーガン前大統領とゴルバチョフ・ソ連最高会議議長との間に「半減する」との合意が成立していた。
  @大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射ミサイル(SLBM)を含む攻撃兵器の弾頭数と運搬手段A大型ミサイルの基数と弾頭数B相互検証―などについても意見の一致をみていた。

  来年六月の米ソ首脳会談までに交渉を煮詰めておく必要があるのは、空中発射巡行ミサイル(ALCM)の削減などだ。従来、最大の障害となっていた米国の<戦略防衛構想>(SDI)の取り扱いについては、ワイオミングで今年九月にベーカー国務長官とシェワルナゼ外相が行った米ソ外相会談で、戦術核と宇宙兵器・海洋発射巡行ミサイル(SLCM)とを切り離して交渉していくことが了解されており、当面、交渉の障害となることはなくなっていた。
  SDIは<米国に向かって飛んでくる核弾頭を宇宙空間の全域で事前に迎撃しよう>というもので、一九八三年三月に当時の大統領レーガンが研究開発を宣言し、その後、宇宙に配備したレーザー兵器にソ連の核弾頭を察知して破壊させる方法などの研究が始められている。そのシステム完成までに五千億ドルから一兆ドルに資金が必要と見られており、米国の現在の経済力では実現不可能だとの見方もある。
  <戦略核兵器削減交渉>との関連でSDIが問題となっていたのは、七二年に両国間で締結された<弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約>の解釈と関わってくるからだ。同条約では、相手国から飛来する大陸間弾道ミサイル(ICBM)を迎撃するABMの設置数を双方二個所、二〇〇基ずつに制限、基本的には、相互の核抑止力を崩壊させないことが合意されていた。
  ソ連側は、SDIはABM制限条約とその精神に違反するものだとし、同条約が順守できないまま<戦略核交渉>を継続することはできないと主張して、SDIはABM制限条約とは抵触しないとする米国と対立したままになっていた。

  <欧州通常戦力交渉>の見通しは、東欧での最近の民主化進展を受け、明るいものとなっている。ウィーンで今年三月に始まった交渉でも、北太平洋条約機構(NATO)とワルシャワ条約機構の双方が保有数を戦車二〇、〇〇〇両、装甲車二八、〇〇〇台、火砲二四、〇〇〇門とすることで一致、地上配備戦闘機の機数でもかなりの歩み寄りを見せている。

  今回の米ソ首脳会談のもう一つの成果は、ソ連のペレストロイカ(再編・変革)と東欧改革を支援する姿勢を米国が鮮明にしたことだ。特に、ソ連が市場指向経済体制を確立できるよう経済・技術協力を行うことを米国が約束したことには大きな意味がある。ソ連の経済は、長年にわたる膨大な軍事支出のために疲弊しきっていると言われており、このままソ連が経済的に破綻すれば、ソ連自体の変革だけではなく、現在進行している東欧の民主化がたちまち危機に瀕することが明らかだからだ。

  <米ソ協調時代>はどこまで本物なのか。
  <激動する世界>を感じないわけにはいかない。

------------------------------

 〜ホームページに戻る〜