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1990年1月11日

赤字削減


  一九八九会計年度には千五百二十億ドルに達した財政赤字の解消策を検討している上下両院合同経済委員会のリー・ハミルトン委員長(民主・下議・インディアナ州)が暮れの二十八日、増税額と歳出削減額がそれぞれ毎年二百五十億ドルとなる赤字削減策を発表した。
  ブッシュ大統領は以前から、あらゆる増税に反対する姿勢を鮮明にしており、ハミルトン委員長のこの提案が政府に受け入れられる見通しは薄い。ただ、議会の有力者が大幅な増税と支出削減の必要を改めて協調したことの意味は、財政赤字をめぐる事態の深刻さを米国民に認識させるという点で、大きいと思われる。

  同委員長によると、現在の予算の八六%は、歳出が義務づけられている社会保障歳出などで占められており、削減ができず、ある程度の削減が可能な予算は一四%に限られているという。一方、財政赤字額は国家予算の一二%に達している。増税なしに赤字を解消するためには、削減可能な支出一四%をほとんどすべて削減してしまうという荒療治以外にはないが、それが非現実的であることは言うまでもない。

  ハミルトン委員長は「こんな大きい赤字はだれも望みはしない。赤字がこれ以上増大しないようにするだけでも大変だ。削減するとなると、苦痛ははるかに大きくなるし、選択もいっそう困難になる」と述べている。同委員長によると、財政赤字の解消が必要な理由は「米国民の生活水準を高く保ち、経済成長と国際競争に関して米国が抱えている問題を解決するため」というものだ。
  米国には、連邦予算の財政赤字を一九九一会計年度までにゼロにすることを大統領と議会に義務づけた<均衡予算と緊急赤字抑制法>(財政均衡法)があった。八五年十二月に成立したもので、削減額は半分を国防費、他の半分を国防費以外で負担することとされていたが、ほとんど機能しなかったため、八七年には収支均衡目標を九三年に先送りした新財政均衡法に生まれ変わっている。

  財政赤字の“生みの親”はレーガン大統領だ。カーター政権時代からのインフレ退治のためにとった高金利政策で景気が後退し、税収が減少、財政赤字が膨らみ始めた。ただ、景気の方は、八二年後半から上向き、以後七年間、経済成長がつづいた。だが、レーガン大統領の<減税〜貯蓄増〜投資増〜税収増〜財政赤字減>という理論は有効性が立証されなかった。それどころか、減税は消費増に直結して輸入を増やし、貿易赤字を膨れ上がらせただけで、期待された税収増にはつながらなかった。

  長期にわたった米国の好景気が、借り入れ財政による資金ばらまき、高金利と高利益に引きつけられた外国からの投資で賄われた“虚像”だったことは、すでに明らかだと思える。
  米国経済の景気バロメーターである自動車産業に景気後退の波が打ち寄せ始めている。乗用車の新車国内販売台数は十二月、前月比で二五%以上の減少を見せている。GMはすでに、工場労働者五千人以上のレイオフ計画を発表している。産業全体でのレイオフは十五万人に達するとの予想もある。
  国民に“消費疲れ”も見えてきている。新たな歳出削減はゆっくりと国民の懐具合を厳しくしていくだろう。増税はそれに拍車をかけることになろう。景気後退は避けられないかもしれない。
  だが、最税赤字削減への取り組みが遅れれば遅れるほど、国民全体の負担と苦痛が増すことは疑いない。
  経済成長を支え、国際競争力を回復するために必要な自己資金がいま、米国には枯渇している。増税と歳出削減という苦痛に耐えても将来に備えるべきときではないか、という気がする。

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