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1990年1月16日

ジャパン・マネー


  「現実問題としては、ドアを閉じるには遅すぎる。兵器システム用の最新半導体技術から政府運用資金まで、米国はすべてを日本に頼っているのだ。日本からの進出企業は二十六万人以上の米国人を雇用している。日本企業を追い出し、日本からの投資をこれから締め出すのは、もうほとんど不可能に近い」と『USAトゥデー』(九日)が書いていた。

  まず対米投資。
  一九八〇年代に日本は、<CBSレコード><コロンビア映画>を含め、五百三十億ドル分の米国資産を買収した。その金額はまだ英国の約半分にすぎないが、日本からの資金流入が米国経済を潤わせていることは疑いない。日本が投資を突然打ち切ることにしたら、米国が受ける打撃は測り知れないものになろう。

  次に国債。
  三十年ものの長期国債は発行のたびに一五%から三〇%を日本が買っている。もし日本が購入を中止したら、金利の上昇は避けられず、株価とドル価は急激に低下すると見られている。
  ハーバード大学の経済学者ローレンス・サマーズ氏によると、日本が突然国債市場から撤退して米国銀行への預金を引き揚げるとなると、連邦準備銀行は施策の選択が事実上不可能な状態になる。国内の現金不足を補うために紙幣の供給を増やしてドルを下落させるか、あるいは、ドルの下落を避けるために高金利政策を採用して資金不足を放置し、企業倒産を増加させるかしかなくなるからだ。
  ニューヨーク株式市場では、毎日の取引の二五%が日本人投資家によって行われている。八七年十月十九日の<大暴落>も日本人投資家の動きが引き金になったとの見方がある。暴落前、ドル下落を嫌った日本人投資家が三十年国債を大量に売りに出したことから、引き止め策として金利が急上昇、それを見た他の投資家が株式から国債に乗り換えて<大暴落>が起こった、という筋書きだ。

  八〇年代に米国内で行われた企業の買収・合併の資金の二五%は日本の銀行から出たものだった。日本の銀行は単独で、米国の銀行なら数行が共同してしか集められない一億ドル以上の融資能力を備えている。
  『USAトゥデー』は「いまのところ、日本は米国経済を混乱させる方向で財政的影響力を行使するようなことはしていない」と言っている。同紙が憂えているのは例えば「最近、ある日本の経済学者が<もし米国が対日貿易制裁を実施したら、日本人投資家による米国国債購入額を自動的に削減するよう法的整備を行うべきだ>と訴えた」という事実だ。同紙は「専門家は<米国指導者は米国経済における日本の巨大な存在振りを頭に入れて、事を慎重に運ばなければならない>と指摘している」と書き、日本資金の急激な引き揚げなどという事態が起こらないよう、政府と議会は配慮すべきだ、との考えを示している。

  では、米国自身はどうすればいいか。
  同紙には「ドアを開放し、いま以上の競争力をつけるために自国の企業と教育に投資することが最良の道だ」という以上の指摘はない。そのこと自体がまた、米国の苦境の深さをよく物語っている。
  この記事には「彼らのカネなしには、われわれはやっていけない」という見出しがつけてあった。
  まずは“事実の直視”から始めようというのが、同紙が経済欄のカバーストーリーとしてこの記事を採用した理由だろう。
  保護と制裁のかけ声が感情的に飛び交うだけの論争はやはり不毛だ。

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