====================


1990年1月29日

ブッシュ人気


  最近の<ニューヨーク・タイムズ=CBSニュース世論調査>で、就任後一年が過ぎた時点でのブッシュ大統領の業績に対する米国民の支持率が七六%に達していることが分かった。
  戦後の大統領の中で、同時点での支持率がこれ以上だったのは、七九%だったケネディー大統領だけだという。第二次大戦の英雄として迎えられたアイゼンハワー大統領でも七〇%どまりだったし、カーター大統領は就任数か月目にギャラップ調査で同じ支持率を得たことがあったが、以降は下降した。レーガンとニクソンの二人の大統領は在任中、このレベルの支持は一度も集めたことがなかった。ジョンソン大統領も一年目は、ケネディー大統領暗殺の記憶が新しかったためか、ブッシュ大統領と同程度の支持を獲得したが、自ら選挙に勝って再任されてからは、同じ支持は集めることができなかった。

  ブッシュ大統領の政策のうち、国民の支持率が高かったのは外交政策だった。特に、パナマのノリエガ将軍捕捉のための米軍の同国侵攻は七四%に支持されていた。裁判を受けさせるための同将軍の米国移送も五四%が承認していた。

  この結果について十八日の『朝日新聞』は「外交による政権浮揚力をてこに十一月の中間選挙を乗り切り、九二年再選の足がかりにする―これがブッシュ大統領の基本戦略である」と解説している。そうだとすれば、パナマ侵攻はその戦略の展開をおおいに助けたことになる。同紙によれば、パナマ侵攻は「対中秘密接触」と並んで「ブッシュ大統領につきまとっていた『弱虫』という政治的イメージを払拭(ふっしょく)するのに、とくに貢献した」らしい。「力によるパナマのノリエガ体制の打倒を、中間選挙の指揮をとるアトウォーター共和党全国委員長は『ブッシュ氏の大当たり』と評した」とそうだ。
  ブッシュ大統領のパナマ侵攻決断は、国内的には大成功といったところだ。

  だが、同じ『朝日』は九日、「米軍侵攻『静かなる抑圧』」という見出しをつけた記事を掲載していた。
  「武装した米兵が数人ずつ、あちこちの住宅街でローラー作戦を展開している。米軍はノリエガ将軍の逮捕だけに的を絞ったわけではなかった。国軍の高級将校を根こそぎ捕らえたのみならず、ノリエガ体制を支えてきた民主革命党などの政治家、労組幹部らに次々手錠をかけて米軍基地内に連行していった。軍将校、民兵を含めた『戦時捕虜』は五千六百人を超す」という報告もこの記事の中にあった。「令状や正規の法的手続きを踏まない一般人の逮捕・監禁が米軍によっておおっぴらに行われている」との指摘もあった。

  先週、本紙の読者、源太郎さんから投書をいただいた。その中で源さんは、米国のパナマ侵攻を「他国の主権を侵す行為」と断じたうえで「アメリカは民主主義の旗印を掲げているのですから、他国に対する時もそのことを忘れないで貰いたいものです」と訴えていた。正論だ。

  パナマに対して米国がとった政策を「大当たり」と評価して受け入れるのは危険だ。米軍側からは結局、この侵攻によるパナマ人死者数は明らかにされなかった。パナマ側には「二千人」との推定もあるという。

  中南米諸国が米国に対する警戒を強めている。米国が今後、<米人の安全確保><非合法指導者の排除>という“パナマ侵攻の論理”を適用して、自由に他国への侵攻をくり返すようになるかもしれないからだ。

  視野の広い、冷静な判断を米国民に望みたい。

------------------------------

 〜ホームページに戻る〜