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1990年2月8日

国債応札


  六日から三日間にわたって、米国庫債券(国債)に対する今四半期分入札が行われている。
  三年物、十年物、三十年物で合計三百億ドル分が発行される国債の主要な引き受け手は今回も日本になる見込みだ。
  『時事通信』が伝えたところによると、生命保険会社などを中心とする日本の機関投資家は、急な円高などの為替リスクがいまは小さいとみられることや<米国の金利低下期待>などのため、「三十年物が八・五%以上の利回りなら魅力がある」(日本生命、住友信託)として、応札に前向き姿勢を見せており、日本勢による落札は従来どおり、全体の三〇%を上回ることになりそうだ。
  財務省のグラウバー次官は入札開始前の五日、「日欧からは健全な水準の需要があると見込んでいる」と期待感を表明、「(三十年物国債の流通利回り)八・五%は四、五週間前に比べると0・五%も高い水準で、外国人投資家にとっては魅力的なはずだ」との見解を明らかにしていた。
  今回の入札をめぐっては「日本勢の応札が低調ではないかとの懸念から、市場金利が上昇、米国株価急落の原因ともなっていた」(『時事』)ほど、世界の投資家が日本資金の動向に注目していたという。

  『ロサンジェルス・タイムズ』のトム・ペトルーノ記者が「金利の低下を望む米国の投資家と消費者は、自分たちがまたまた日本のなすがままになっているのに気づくことになる」と書いている。
  昨年末に七・九七%だった三十年物国債の流通利回りが今月二日、ほぼ八・五%の水準に届いた。インフレ懸念の台頭が主因とみられているが、これで利回りが、日本人投資家が今回の入札で求める率に近づいたことも確かだ。
  ペトルーノ記者が問題視するのは、国債の利回り上昇に引きずられて住宅購入貸付金など、他の長期金利までが上昇することだ。住宅業界では早速、金利上昇を嫌った住宅購入予定者が見合わせに走るとみて、今後の販売不振を心配し始めているという。国債利回り上昇の影響で株価が下落したことを憂えるのは他のエコノミストと同じだ。

  日本の潤沢な資金を国債に引きつけることに失敗すれば、米国財政がたちまち資金不足に陥ることは明白だが、日本からの応札を確保するために国債利回りが上昇し、そのあおりを受けて一般金利まで引き上げられることになるのでは、国民生活への影響があまりにも大きい―と同記者は考えている。
  <日本の国債利回りは現在六・四%だ。米国債との差、約二%というのは、為替リスクを考慮しても、十分に大きなものといえよう。だが、それが少しでも変動すれば、日本資金はどう動くだろうか>
  同記者の気はなかなか休まらない。
  <米国の投資家は東欧情勢にも注目する必要がある。開放が急速に進展すれば、これまで米国に流れていた日本資金がたちまち東欧に投資先を変更するかもしれないからだ。米国人投資家にとっては、日本から片時も目が離せない状況がつづく>
  ペトルーノ記者にいま分かっていることは「日本人に国債を買いつづけさせるには、とにかく、利回りを高く保つしかない」ということだ。

  米国経済が健全さを取り戻すまで、ペトルーノ記者の“いらだち”は消えそうにない。

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