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1990年2月20日

新政治綱領案


  <ペレストロイカ(変革)は経済、社会関係、民族間関係の分野などで少なからぬ困難を伴っている。必要な改革の規模は、予想されたよりもはるかに大きく、加えて改革を実施するうえで犯した誤りもある>とソ連共産党の新政治綱領案は書き出されている(『朝日新聞』より)。
  この序論は<現在の根本的問題は、改革のテンポをあげることである。以前の経営や運営システムが相当程度まで作動していないうえ、新しいメカニズムも完全に効果をあげていないという局面を迎えている>とつづいている。
  ソ連の現状のすべてが、わずかこれだけの文章から分かる。

  ゴルバチョフソ連最高会議議長兼共産党書記長は一九八五年三月の書記長就任演説で、国家機関と社会組織の公開性を拡大する必要を訴えた。「人は与えられた情報が多ければ自信を持って行動する」という信念に基づいた<グラスノスチ>宣言だった。
  同書記長は翌年六月になると、経済、政治、社会、文化、国民意識などを総合的に改革するための<ペレストロイカ>路線を明確にした。八七年一月の党中央委員会総会では、保守派党官僚と肥大した官僚機構を批判、軍事強化ではなく経済再建の道を歩むべきだとする大胆な提案を行った。同年十一月の革命七十周年記念集会では、ペレストロイカの基本精神が<社会主義的民主主義>にあると明言した。

  朝日新聞社の『知恵蔵』は<ペレストロイカの将来を脅かす、三つの難問がある>と解説している。<第一は、食料、消費物資の面での国民の不満、第二は複雑化する民族問題、第三は保守官僚層の直接、間接の抵抗である>という。

  新政治綱領案を見ると、その“難問”の解決はまさにこれからだ。
  <党は食肉、牛乳、野菜その他の農産物と畜産物の生産の伸びを早めるために経済の農業部門を優先的に発展させることに賛成する>という項を見れば、ソ連経済が全体として立ち直るまでにはかなりの時間が必要だと分かる。
  <我々は社会活動を全面的に国家の統治下に置くことを放棄する。専制や違法に導いたものすべて、そして権力や特権の乱用を罰することなく許したものすべてを放棄する><我々は社会主義的所有に対する幼稚な見方、商品・貨幣の相互関係の無視を放棄する。人間の可能性や素質を阻止するあらゆる管理や経営の形式・方法を放棄する>と、ここでも原則がくり返されていることからは、いまも残る保守・官僚層による抵抗の強さが想像できる。
  <民族問題>の解決はさらに困難かもしれない。案は<民族自決の原則を再確認し、この権利を行使する仕組みの法制化を支持する>としながらも、<多民族国家の破壊につながる分離主義的スローガンと運動に断固として反対する>と述べ、この国がまだ、硬軟両政策を並べて解決策を模索する段階にあることを明らかにしている。

  そのような状況の中で、新綱領案は<我々の理想は人間的で民主的な社会主義である>と宣言している。それを実現するためには@一党独裁の放棄A複数政党制の容認B大統領制の導入―が必要だとうたっている。

  <ゴルバチョフの改革>は東欧を巻き込みながら、おそらく世界のすべての人々の予測を超えて、ここまで来た。ソ連国民自身がそれにどう応えるか―。
  世界の注目がそこに集まる時期になってきた。

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