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1990年3月1日

西独との違い


  「日本と西独とでは何故反応が異なるのだろうか」という、いささか興味を引かれる記事が二十六日の『ウォールストリート・ジャーナル』に掲載されていた。
  貿易不均衡問題をめぐる米国人や欧州人の反応が、相手が日本人か西独人かで違っているのではないか、と感じる人は、米国人の多くに「時節はずれの国家主義者」の烙印を押された観のある石原慎太郎代議士に限らないのではないか。
  日本の巨額の貿易黒字を責める政治家、物知りは先進工業諸国に多い。だが、実は、欧州の“発電所”西独は、日本以上の規模で世界各国に輸出を行っているのだ。
  西独の月額貿易黒字は現在、約三百億ドル。これは日本の二百億ドルを大きく上回る数字だ。それでも、西独の不公正貿易慣行を非難する声は米国や欧州にはない。
  日本だけが責められるのは、責める側に日本人に対する人種的、文化的偏見があるからではないか、との一部の日本人の疑いを、記事は全面的には否定していない。だが、対日批判にはそのほか、いくつかの理由がある、と記事は言っている。
  まず明らかなことは「外国人から見て、西独市場は日本市場よりも開かれている」ということだ。米政府が各国の貿易障壁の実態をまとめた報告書では「日本の障壁には二〇ページが費やされたが、西独には二ページが使われただけ」だった。
  また、経済協力開発機構(OECD)によると、国内総生産に対する<製品輸入>の割合は西独が一六・六%だったのに対し、日本はわずか三・四%にすぎなかった。
  貿易黒字が特定国に集中していないことも、西独を目立たなくしている。西独の対米黒字は一九八九年、八〇億ドル。これに対して日本は五〇〇億jで、米国の貿易赤字のほぼ半分が対日赤字だった。しかも、日本国内に企業進出してこの貿易黒字を享受した外国企業はほとんどなかった。
  最近の数字によると、外国系企業による対西独直接投資額は、西独全資産の一七%に達している。だが、対日はわずかに一%。日本への直接投資額の割合は七七年の水準から半減している。
  この記事には、日本への進出を計画した世界最大の穀物取引会社<カーギル>が五年前に味わった苦労の例が挙げられている。
  同社は日本に飼料工場を造りたいと考えた。材料のトウモロコシの輸入には業者免許が必要だというところから話はこじれた。免許を申請するには日本国内に工場がなければならなかった。だが、日本政府は、既存の工場が一つでも廃業しない限り、新工場の開設割り当てはない、と言った。古い工場一つを買い取り、それを廃棄しようと思っても、当時、<カーギル>の買収申し出に応じる工場はなかった。さらに難題だったのは「輸入免許を取らずに工場用地を購入してはならない」という規則だった。<カーギル>の進出はこうした八方ふさがりの障害を乗り越えて初めて実現したのだという。

  パームスプリングで二日と三日に行われる日米首脳会談での日本側の方針について『時事通信』は「外務省は最大の懸案となっている構造問題協議が突出しないよう幅広いテーマを用意、『極力、球を散らす』(外務省)作戦だ」と伝えた。
  『ロサンジェルス・タイムズは』は二十八日、「ブッシュ大統領は海部首相に対し、日本政府が日本の市場開放のため十分に動くよう求める方針だ」と伝えた。
  <カーギル>の進出紛争から五年、日本政府がまだ<球を散らす>作戦が有効だと考えているとは、ブッシュ大統領は考えていないに違いない。
  先日ワシントンを訪れたコール西独首相が、米独関係の協議の際に、日本と同じ作戦を使った形跡はない。

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