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1990年3月5日

外圧頼り


  経済同友会副代表幹事の賀来龍三郎<キャノン>会長の『週刊朝日』(三月三日号)での発言がおもしろい。その発言に付された見出しの一つは<驕るな自民党>。<政界を叱る>というのもあった。


賀来龍三郎氏
(From:http://www.mlit.go.jp/kokudokeikaku/daishu/online/lec25.html)

  選挙の前半に海部首相が持ち出した<体制選択論>について賀来会長は「自民党は腐った大人だと思っていたのに、あれを聞いて、大人なんかじゃない、中学生並だと呆れました」と言う。「だって、そうでしょう。いったい誰が、日本をソ連のような国にしたいと考えていますか。そんなことは社会党も考えていない」という辺りの歯切れの良さに、説得力もある。
  自民党が昨年の参議院選挙で負けたことについても賀来会長は「敗因はリクルートや消費税、女性問題だとは思っていない。真の原因は緊張感を欠いた自民党にほとほと国民は愛想をつかしたのだと思っています」と明言する。
  米国の不動産や企業に対する買収に日本の資金が殺到することになったのにはこんなステップがあったという。―日本の銀行は「かつてサラ金業者にカネを回して庶民を苦しめ、大蔵省に規制されると、今度は不動産業者に何十兆円ものカネを流して、地価をつり上げた。それも規制され、いまはアメリカの不動産、そしてM&Aという名の企業買収に日本のカネを回している。地上げ批判は、今度は外国から出てくるはずです」
  同会長によると、ここでも悪いのは自民党だ。「いまの自民党の政策では、銀行もあふれかえるカネの持って行き場がない」からだ。
  コメの輸入問題では「自民党までが<コメ一粒も入れない>というのではあまりに情けない」と同会長は見る。二十五年前に「やる気のある若者に日本農業を委ねていれば、工業製品同様、安くて品質のいい農産物が世界中で喜ばれていたはずだ」と信じるからだ。コメの自由化はすぐにはできないが「自由化へのタイムスケジュールを具体的に示し、そうなっても生き残れる日本農業づくりに全力を傾注するのが政治ですよ」と言い切る。

  『週刊朝日』に並行して『朝日新聞』が先月二十四日、賀来会長の発言を掲載した。
  そこでは<日米構造問題協議>が槍玉に挙げられていた。
  「協議の議題は、もともと、日本が自力でやらなければならない改革ばかり。―交渉に当たっている官僚たちは<外圧を利用して日本を変える>としか考えなかったり、ひどいのは、米国に抵抗して日本が譲る部分を減らそうとしたり。―日米関係はさらに悪化して、危機が深まるのではないか」という意見でも、その視点は実に明快だ。
  同会長は「いま問われているのは、実は日本の社会システムの改革だ」と言う。日本が明治維新のあと採用してきた<金融業界を護る大蔵省、産業を保護する農林水産省>といった仕組みは<殖産興業>のための「時代に合わないシステム」で「今の社会システムをすべてスクラップにし、国民生活第一、人類との共生第一のシステムを新たに作り始めなければならない」と力説する。

  ほんとうは日本の政治家から聞きたい意見が、賀来会長の口から次々に飛び出している。会長は、いまこそ「政治家の出番だ」と訴える。「ソ連のゴルバチョフ議長なみの人物が、命をかけて、日本の進むべき道を指し示してほしい」と願う。だが、実情は「ではだれが首相になればそれが期待できるかとなると、残念ながら一人も思い浮かばない」というものらしい。
  では、いっそ社会党の土井委員長はどうかというと、「直面する諸課題にどう取り組む覚悟なのかは全然いわない」と、やはり批判の対象となっている。
  財界の中枢にいて、政界の表と裏に十分通じているはずの賀来会長がこんなふうでは、発言を聞く側も会長に合わせて「つくづく、日本人は不幸だと思う」と嘆くしかない―。

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