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1990年3月12日

対ソ援助


  日本人には対日貿易強硬論者としれ知られているリチャード・ゲッパート民主党下院院内総務が六日、ワシントン市内で行われた<米国政策センター>の朝食会で講演し、ソ連と東欧諸国に向けて米国は広範囲な経済援助を実施するべきだとの考えを表明した。
  これを報じた『時事通信』によると、ゲッパート下議は「ソ連経済の健全化は世界の平和をより強固なものにするだろうと指摘、具体的には、食糧援助のほか、貿易上のさまざまな制限の撤廃、対ソ投資支援、世銀融資の承認などを挙げた」という。

  六日の『ロサンジェルス・タイムズ』には「ソ連経済の病状は悪化しており、米国の援助は手遅れかもしれない」という内容の記事があった。
  米ソ首脳による<マルタ・サミット>のあと、ブッシュ大統領はゴルバチョフ・ソ連最高会議議長(共産党書記長)の国内改革計画の成功を助けるため、対ソ貿易・投資の制限を縮小、米国に入るソ連製品にかける関税を削減し、ソ連が自由市場経済に移行できるための技術的援助を行うと約束した。
  「だが、三か月後。米国の援助がソ連に重大な影響を与えるかどうかははっきりしない」と『LAタイムズ』の記事は言う。「国内経済の改革実施にソ連が相当もたついている」からだ。「ソ連経済が危機的状況に近づいていることはすべての兆候から分かる」ほどになっているというのだ。
  「私企業はある程度認められたが、拡大しすぎてはならないとされ、規制できつく縛られている」のが現状だそうだ。国営企業は超過利益を設備近代化に投じていいことになったが、「ソ連の工場による再投資は非常に小さいまま」になっているという。
  同紙によると、ソ連経済は昨年中ごろに下降に転じて以来、ますます状況を悪くしている。生産は目に見えて減少しており、食料品や石けん、その他の生活必需品の不足状態が深刻化している。昨年は六%だったインフレ率も今年は一〇%、来年は一三%に達するだろうとみられている。
  物不足の一例として、米国のある専門家はエンジンを取り上げ、「エンジンの不足で鉄道の機関車が足りなくなり、輸送にガタが生じ、(地方からの)食料品の出荷が一層困難になる」といった悪循環の存在を指摘しているそうだ。
  「ソ連経済の悪化がゴルバチョフ議長による政治改革を危機におとしいれるのではないか」との懸念が米国のソ連専門家とブッシュ政府内に強まっているのは、そのような状況を見てのことだ。

  ソ連経済の改革は容易ではない。私企業を公認し、自由市場による価格決定方式を採用しても、さらに銀行制度の創設、税制の根本的改変、経理会計制度の西欧化など、大きな問題を解決しなければならない。資本を集め、管理能力のある人材を養成するのも大仕事になろう。
  『LAタイムズ』の記事は、ブッシュ大統領が<マルタ・サミット>でソ連に約束した貿易上の特恵待遇や技術援助について、「ソ連のビジネス環境が適当なものにならない限り、事実上何の意味もない」と断言している。

  ゲッパート下議は、ソ連と東欧の改革を側面支援するために、例えば、米国農民は大きな役割を担うべきだと言っている。米国が安く提供した食料で当面の食料品不足を解消し、ソ連政府の手で食料品の販売が続けられている間に、農業の私営化と流通機構の整備を行うことができるだろう、というわけだ。


2004年民主党大統領候補予備選中のゲッパート氏
(From:http://www.ruf.rice.edu/~dems/campaigns.shtml)

  同下議が言うように、「具体的な援助を早く実施しないと、ソ連の改革は失敗する恐れがあるのか、それとも「米国の対ソ援助はもう手遅れ」なのか。
  米国内の議論はもう少しつづきそうだ。

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