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1990年3月19日

歳入委員長の増税案


  「米国に必要なのは増税―下院歳入委員長が勇気ある提案」
  下院歳入委員会のロステンコウスキー院長が『ワシントン・ポスト』(十一日)に寄稿の形で発表した“野心的な”財政赤字解消策を報じる記事に『時事通信』はそう見出しをつけた。「国防費の実質三%削減、国民年金のインフレスライド分を含む全支出項目の一年間凍結、ガソリン、アルコール、たばこ税の引き上げ―などを含む五カ年計画で、これによって財政赤字を一九九四年度に解消することを目指している」という記事だ。「同委員長は『米国の未来にとって、いま必要なのは減税ではなく増税である』と主張、激動するソ連・東欧と同じように、米国の政治家は真実を語る勇気を示し、国民に若干の犠牲を受け入れるよう求めるべきだと訴えている」という。

  十一月に中間選挙がひかえており、国民受けのいい減税案ばかりが表面化してくる中での提案だけに、各方面が注目、ほとんどの新聞がホワイトハウスの反応を伝えると同時に、何らかの論評を加えていた。
  『ウォールストリート・ジャーナル』(十三日)は「増税が(ロステンコウスキー委員長の)提案の中心要素になっているにもかかわらず、連邦財政赤字削減のためのこの広範囲な提案を(増税反対をくり返して来た)ホワイトハウスも歓迎している」と報じている。フィッツウォーター報道官は、ブッシュ政府の感想として、同提案は「まじめで思慮に富んだもの」と述べているそうだ。
  ホワイトハウスのこの反応について同紙は「大規模で長期にわたる赤字削減計画に取り組み始めたいという政府の欲求を反映したもの」と分析し、ブッシュ政府が「ある種の増税」を考慮しているのではないかと示唆している。

  『ロサンジェルス・タイムズ』は同日、ロステンコウスキー委員長の提案を支持する論説を掲載した。同紙はその中で、この提案は「納税者や年金生活者、そのほか政府の補助に頼っている人たちを含め、赤字削減の重荷は誰にでも等しくのしかかってくること、赤字額が一兆ドル以下だった約十年前にこの問題に対処していたら、解決は比較的たやすかったろう」という二点を米国人に思い出させたと評価する一方、この赤字は、財務省が国政運営費を内外の債権者に依存していることを意味するとし、年間国家予算のうちの千五百億ドル以上が利子支払いのために消えているのでは、民間投資や経済的拡張、就労機会の拡大に回る資金が少なくなると改めて指摘、赤字削減のために、早期に何らかの手を打つ必要があるとの考えを示している。

  『ニューヨーク・タイムズ』によると、同委員長の提案に及び腰で対応しているのはむしろ、委員長と同じ民主党員だ。同党指導者たちは、提案が「民主党は増税主義者」だとキャンペーンで利用されることを恐れているのだそうだ。フォーリー下院院内総務は、提案を「たいへん興味深いもの」としながらも、一方で、ブッシュ大統領の支持がないまま増税案が通る見込みはほとんどないとの従来の考えをくり返し、慎重な姿勢を見せているという。

  『朝日新聞』によると、<ソニー>の盛田昭夫会長が十三日、経済問題に関する自民党の特別調査会で講演し、短期的利益を追うあまり、開発努力をしない米国産業の怠慢を再び批判した。
  「真実を語る勇気」(ロステンコウスキー委員長)のある米国の政治家なら、同会長の批判にも耳を傾けるかもしれない。
  米国の財政赤字と産業の弱体化は、たぶん、同じ“病根”から出ている。国民が「若干の犠牲」(同)に耐える気になれば、産業力回復の道も自ずと見えてくるに違いない。

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