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1990年3月21日

人口高齢化


  朝日新聞社刊『知恵蔵』によると「人口全体の中で高齢者の割合が高まることを人口高齢化という」そうだ。ここでいう<高齢者>とは六十五歳以上の人々のことだ。
  日本の高齢者の割合は一九八八年、一一・二%に達している。二〇〇〇年には一六・三%、二〇一五年には二三%になると予測されている。その二〇一五年ごろには、人口高齢化傾向が終わり、安定した<高齢社会>になるという。
  
  一方、「人口の中での労働力人口の割合は労働力率という」そうだ。
  日本の男性高齢者の労働力率は一九八五年、四一・五%、女性は一五・一%だった。高齢者の中で現に働いているか、働く意思を持った人の割合だ。日本の男性はこの率がきわめて高く、フランスの一・一%や西独の一・七%はもちろん、米国の九・八%をはるかに引き離している。

  通産省が<シルバー・コロンビア計画>という高齢者対策を発表したことがある。日本との対比で不動産価格と消費者物価が低い外国に有志の高齢者を送り出し、定住させ、そこで年金生活を送ってもらおうという計画だった。
  この計画は、一部で大きな関心を集めたものの、たちまち、輸出大国・円高日本が今度は<老人輸出>に乗り出したとの批判を浴びて、<健康な老人の短期的な滞在プロジェクト>に内容が変更されることになり、最近では、あまり話題にもならなくなっていた。

  『ロサンジェルス・タイムズ』(三月三日)にこの問題を扱った記事があった。人が忘れたころの問題再提起といった趣だったが、同紙の記事にしてはめずらしく、すっきりしない読後感を味わってしまった。一部の風潮に乗って対日批判記事を無理につくり上げたという気配があったからだ。
  この記事には、日本政府による<シルバー・コロンビア計画>は事実上放棄されたものの、「米国のある不動産開発業者はまだ<日本の次の輸出品は老人かもしれない>と疑っている」という意味の見出しがつけられていた。
  マーサ・グロウブ記者がこの記事を書いたのは、サンフランシスコの<ホテル日航>で行われた環太平洋不動産業者会議で、日本人を母として日本で生まれた開発業者、ウィリアム・チャン氏が「抜け目ない日本の投資家は、そばに住宅を開発するだけの土地ついたゴルフ場を買っている。そういうところを引退者専用村に変更するのは簡単だ」と証言したのを聞いたからだ。
  同記者は、高齢者向けの雑誌のある編集者が、<非常に非日本的だった>日本政府による計画はだめになっても、民間開発業者による同様の計画は残りえる、と語っていることを紹介し、自説を補強している。
  だが、日本人による<老人輸出>の可能性を論じる根拠がただそれだけというのはどうだろうか。息子や娘が親の面倒を見るという儒教的考えが日本で薄らいでいること、土地不足が深刻であることを挙げて<日本の高齢者はいずれどこかに生きる場所を見出さなければならないのだ>と強調してはいるものの、この記事はやはり、一不動産開発業者の意見に便乗して手軽に書き上げられただけのものだという印象は消えない。
  いや、同記者は一方で、<老人輸出>という考えは「日本の伝統や文化に阻まれ、実行に移されることはあるまい」との見方や、ロサンジェルスの投資会社<タケナカ&カンパニー>のタケナカ・ユクオ社長の「言葉や文化を知らない外国での年を取ってからの暮らしを快適だと思う日本人はほとんどいない」との意見を紹介している。だが、同記者はこちらのほうの意見はあまり重視していない。公正さを欠いているという印象が残った理由の一つだ。

  ふだんはいい記事が多い『ロサンジェルス・タイムズ』でさえ、対日批判記事のすべてが建設的な内容だというわけではないことを、グロウブ記者の記事から改めて学んだ。
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