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1990年3月26日

資産売却


  日本に保有している資産を売却する動きが米企業のあいだにあるそうだ。
  『時事通信』によると、『ニューズウィーク』誌が「米大手企業はばぜ、日本から撤退し始めているのか」と題する記事を掲載し、「クライスラー社が三菱自動車株の売却で六億ドルを手にした」例などを挙げ、「米産品や米企業に対する日本の市場開放が進もうとしている」状況下で「米企業が日本での保有資産売却を進めている」のは「一時的な収益狙い」であり「米企業の競争力の放棄にもつながっている」と警告しているという。

  『ニューヨーク・タイムズ』にジェイムズ・スターンゴールドという人の東京発の記事が掲載された。「日本での苦悩/撤退する米国企業」と題した二回連載記事のうちの一回目(二十一日)には「日本の経費高に立ち往生する銀行」という見出しがついていた。
  スターンゴールド氏は『ニューズウィーク』と同様、長年にわたる米国の圧力で「日本市場が開放されてきたにもかかわらず」としたうえで、全米最大の銀行<シティーバンク>を含む多くの米国企業がいま、日本での営業活動に「怖じ気づいている」のだと報告している。進出米国企業の多くが「真の問題は実は、行政的あるいは文化的障壁にあったのではなく、日本では営業に経費がかかりすぎ、競争が厳しすぎるため、いくら努力しても太刀打ちできないことにあった」と感じているのだそうだ。

  米国の銀行は長年にわたり、開発途上国や国内不動産開発業者に対して回収率の悪い資金の融資を強いられてきた。そのため資本充実で後れをとり、短期に利潤が上がらない大規模融資にはいよいよ消極的になっている。<ケミカルバンク>は大きな資本が不要で危険が小さい企業に集中しているし、<バンク・オブ・アメリカ>は日本の経費高を嫌い、来月にはアジア本部を香港に移す。
  米国の銀行で唯一、一般消費者を相手に世界中への営業拡大を企図していた<シティーバンク>でさえ、異常な物価高に阻まれ、日本の銀行を買収する考えを放棄した。経営不振に陥った<平和相互銀行>の買収合戦に乗り出し、<住友銀行>に敗れた際には、同銀行は表向きは「日本の銀行が米国企業に買収されるのを日本人は許さないのだ」との苦情を発表したが、現実には、高い買収価格が直接の“障壁”だった。
  日本の銀行は、豊かなカリフォルニアでの市場の二五%を占有している。それに対し、日本に進出している外国銀行八十二行の市場占有率はわずかに一・六六%にすぎない。
  日本の銀行がこうした競争力をつけたのは、この十年間に国内の株と資産の価値が高騰したからだ。しかも、円高が資産の相対的価値をさらに上昇させている。
  同じ『ニューヨーク・タイムズ』が二十二日、日本に進出した米国企業としては最大級の成功を収めた化粧品会社<エイボン>が数週間前に日本での営業網を四億八百万ドルで売却した話しを伝えた。この売却は、米国本社が抱えている十一億ドルに上る負債を減らし、乗っ取りの噂に対抗するための資金調達を図ったものだったと説明している。

  東京株式市場では二十二日、平均株価が三万円を割った。昨年十二月二十九日のピーク時からは一万円近い下落だ。円安も同時に進行し、一時的には一ドルが一五五円台になった。
  日本の株価上昇は異常なレベルに達していたとの見方がある。株価高などに支えられて、企業が実力以上に資金を調達できた時期はひとまず終わったのかもしれない。

  日米構造問題協議が四月初旬の<中間報告>にむけて詰めの作業の入っている。日米が協議するべき経済構造上の問題点は、双方に尽きることがない。

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