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1990年4月20日

三世問題


  韓国の盧泰愚大統領が五月二十四日に訪日することが決まった。
  盧大統領の訪日で焦点となるのが<三世問題>だ。

  一九六五年に日韓国交正常化が行われ、在日韓国人の法的地位協定がまとまった。ただ、このとき日本政府は一世と二世については永住資格を認めたものの、三世以降の地位については一九九一年一月までに再協議することとし、態度決定を先送りしていた。<三世問題>とは、つまり、在日韓国人の三世以降の法的地位をどう取り決めるかということだ。

  盧大統領は十六日、日韓議員連盟の会長に就任したあと挨拶のために訪韓した竹下元首相と会談、自ら訪日した際にこの問題を海部首相と直接話し合う考えを表明している。韓国側が求めているのは@在日韓国人の子々孫々までの永住権付与A一時帰国した在日韓国人の再入国の際の許可制度の廃止B罪を犯した者の退去強制の廃止C指紋押なつと外国人登録証の常時携帯義務の廃止―などだ。
  これに対し、日本側がこれまでに非公式に韓国側に伝えた改善案は@三世に一世と二世並の永住権を認めるA再入国制度を“緩和”するB退去強制を“弾力的に運用”するC地方公務員への採用を拡大するD就職差別の解消に努める―などというものだ。

  『朝日新聞』(十八日)によると、韓国側は特に、指紋押なつ問題に強い不満を表明しているという。
  日本側では、警察庁が治安対策を、法務省が外国人管理を理由に<指紋に代わる効果的な認識方法がない>として、押なつ制度の廃止に反対している。自民党も党治安対策特別委員会が廃止反対を訴えている。

  外国からの何らかの要求に対して自民党と官僚が国内事情を盾にしてまともの返事をしないところは、貿易不均衡をめぐる日米間の交渉過程で何度も目にしている。日米関係を土台にして国際社会に日本をどう位置づけていくかといった視点がこの二つの組織から出てくることはまずなかった。
  <三世問題>には日韓関係の根本的な問題が集約されている。だが、自民党と官僚はここでも、相変わらず、両国関係の将来を視野に入れた思考よりも国内事情の場当たり的説明に忙しく、傲慢さと国際政治に対する無知をさらけ出している。

  竹下氏との会談で盧大統領は、豊臣秀吉の文禄の役(一五九二年)と日本による韓国併合(一九一〇年)に触れ、この二つの事件が両国関係にまだ影を落としていると強調し、悠久で同伴者的な協力関係を築くためには、こうした影を取り除く必要がある、と述べたそうだ。
  日本人の一部には、韓国側のこうした指摘を「またか」と捉える傾向がある。自民党と官僚はそこまで露骨な反応は示していないが、指摘に正面から回答していない点では「またか」組と同列だ。本当の痛みを知るのは傷を受けた人たちであり、傷を受けた側が<他人の痛みを知ろうとしない人物が再び痛みを与えにやって来るかもしれない>と危惧するのには根拠があると思える。

  海部首相が当初思われていた以上に国民の支持を集めている。理由の一部は、その姿勢が自民党と官僚による従来の政治パターンから少し離れているように見えるからに違いない。<三世問題>についても海部首相は「(在日韓国人は)日本政府が連れてきたという経緯があり、その歴史的経緯は重要視している」と発言している。あって当然の認識であるが、自民党内からこうした発言が聞こえてくるのはきわめて稀なことだ。

  手前勝手な軍事的必要から日本へ強制連行してきた人たちとその子、孫の世代の法的地位の問題を解決するのに、自民党流の下手な小細工は不要だ。

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