====================


1990年4月24日

一万五千号


  本紙がきょう、創刊以来一万五千号を迎えた。
  創刊号が出たのは一九三一年の十一月五日。陣容は社長:藤井整、編集長:井上勇(のちに伊丹明)、編集部記者:松井豊蔵・加藤新一・中村秋季・沼田利平、広告:テッド鈴木(のちに谷次郎)、英文:村田五郎(のちにラリー田尻)、営業:島村藤馬・森千鳥(のちに丸谷潤子)、工場長:寺田一男というものだった。
  創刊号は四ページ。第一面は<創刊のあいさつ><各地にあがる正義擁護の“のろし”><近く加毎後援団体の合同大会を開催><藤井氏モネタで演説><僕のコラム(藤井整)><連載小説:霧の小唄>、第二面は<日支再び衝突><北満の状勢緊迫><黒竜江軍攻勢に転ずる/日軍死者十五人><例年の御題:暁の雞声>、第三面は<藤井整氏演説会三千の魂を焼く><古屋銀行の救済を横浜正金断る><二世弁護士が大会開催><父のない娘たちを米婦人が世話><日本のプリズム:現代明暗色>、第四面は<農業市場><羅府両市場野菜相場><地方通信>という構成になっていた。

  「創刊のあいさつ」は加州毎日新聞の発刊事情と決意をこう書いている。
  「加州在留同胞の既に有している言論機関が、あるものは社内の統一を欠いて紛擾の極は遂に金権の前に同胞の福祉を踏みにじって何等反省の色なく、またあるものは事勿れ主義の新聞商売気質に堕して言論に節無きを恥じず、同胞は既存の言論機関の何れをも信頼し能はざるに到り、ここに正邪の弁別に良心的な新聞を要求する声澎湃として各地に起こり、本紙はその声に応じて、多数有力同胞支持のもとに生まれ出たものでございます」
  「加州毎日新聞は新聞の使命とする報道の敏速正確を期することは勿論でありますが、一面また、現代の新聞界に正にその跡を絶たんとする主張の強調ということについて万全の努力を傾けんとするものであります」
  不法滞在者密告事件に揺れる一九三〇年のロサンジェルス日系社会の状況を強く反映した内容だった。

  新聞創刊に関する藤井の考えは受け入れられ、二か月後には、ロサンジェルスはもちろんパサデナ、ガーデナなど四十四個所に加毎後援会が組織された。都市部に読者が多かった『羅府新報』に対し、農村部に強い『加毎』といわれ、三二年五月には英文欄一ページを加え、八ページ立ての新聞となった。
  ただ、創始者・藤井整の論陣の張り方は新聞人としては型破りで、後に藤井自身が「だから一部の同胞から恨まれてもおり、また憎まれてもいた」と回想したほどだった(『加毎の歩んだ道』一九四〇年)。三二年十一月二十六日には、拳銃を持った何者かに、加毎の近くで藤井が襲われるという事件も発生した。

  太平洋戦争が勃発し、四二年二月二十一日、藤井は反米要注意人物の一人として戦時収容所に送られた。寺田工場長を中心にして刊行が続けられたが、『加毎』は一か月後の三月二十一日に休刊を余儀なくされた。

  戦後の再刊第一号は四七年八月十一日に発行された。
  日系社会は既に、市民協会(マイク正岡書記長)を中心に、いわゆる<排日土地法>の撤回に向けて動き始めていた。藤井はこの市民協会の動きと並行して、独自に排日土地法に挑戦することを決め、四八年七月、帰化不能の外国人としてイーストロサンジェルスに土地を購入し、本来の法律家としてもこの問題の解決に全力を注いだ。
  その間にも藤井は<わたしの欄>を始めとして地方通信、雑報にいたるまでの記事をほとんど一人で書き続けた。

  藤井を含めた関係者の努力で排日土地法は、五二年四月十七日、カリフォルニア州最高裁判所が同法は連邦・州憲法に違反しているとの判決を下したのにつづき、同年十二月二十四日には<マッカラン=ウォルター改正移民法>が発効、一三年の第一次<外国人土地法>からおよそ四十年ぶりに撤回された。

  長い激務に耐えた体を休めるように藤井が他界したのは、その二年後の五四年十二月二十三日だった。菱木寛現社長が『加毎』の発行事業を継承した。

  今日の南カリフォルニア日系社会には『加毎』創刊当時のような対立や騒擾は存在しない。経済大国と呼ばれるまでになった日本の成長、基本的な日米協調関係も日系社会の安定に大きく貢献している。<創刊のあいさつ>にあった「主張の強調」が難しい時代だとも言える。

  <創刊のあいさつ>は結びの言葉として「『加州毎日新聞』は従って常に読者とあることを理想といたします。読者と同じ地面に立って、その喜怒哀楽を諸共に悦び、怒り、悲しみ、楽しむことを何ものにも代え難い本懐と致します。差しのべられた同胞の暖かき手をいま握って立つ本紙の欣び、何ものにたとえましょうや。かわらざる御愛読を乞う次第でございます」と述べていた。
  今後の指針としても、たびたび読み返すことにしたい。

------------------------------

 〜ホームページに戻る〜