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1990年5月17日

増税論議


  一九八五年に議会を通過した<グラム/ラドマン/ホリングス法>(均衡予算と赤字緊急抑制法)は<財政均衡法>と通称されている。当初は、連邦予算の赤字を八七年度の千四百四十億ドルから毎年三百六十億ドル漸減して、一九九一年財政年度には赤字ゼロを実現することを大統領と議会に義務づけることになっていたが、八七年に施行されたときには、九三年度が赤字ゼロの年とされ、目標達成が二年間先送りとなった。
  それによると、来年九一年度の赤字限度額は六百四十億ドル。財政赤字が限度額以上になった場合は自動的に、半分を国防費、残り半分を非国防費を対象に歳出削減が行われることになっている。
  自動的な削減は無差別、全分野に及ぶため、政府と議会が赤字を六百四十億ドル以下に抑えることに失敗した場合、高齢者や低所得者に対する各種補助が減額されるなどの事態が発生し、「十一月の選挙では再選される者はいない」(ホリングス上議・民主・サウスカロライナ州)といわれるほどの深刻な影響が国民生活に出ると予測されている。

  政府の行政管理予算局によると、ことし一月段階での九一年度予想赤字額は均衡法の限度を三百六十億ドル超過する一千億ドルだったが、最近の金利上昇と経済不調で、発行ずみ国債などに対する政府の支払い利息が百億ドル増加する一方、税収の九十億ドル減少が見込まれることになった。つまり、九一年度の予想赤字は結局、六百四十億ドルの限度額を合計五百五十億ドルも上回ることになってしまったわけだ。
  さらに、危機に陥っている全米の貯蓄貸付銀行の救済資金として必要とみられている三百十億ドルをそれに加算すれば、目標達成のために縮小すべき予算は、実に八百六十億ドルに達する。しかも、この限度超過額については、議会予算局では九百七十億ドル、合同予算委員会では千百十億ドルと見積もっており、ともに行政管理予算局のものを大きく上回っている。

  米国の国家予算およそ一兆二千億ドルのうち、九千億ドルは社会保障年金や契約ずみの兵器購入費など、優先支出がすでに決められたものだ。つまり、もし増税を一切実施しないとすれば、少ない方の政府見積もりでも八百六十億ドルに達する超過赤字は、残りの三千二百三十億ドルの枠内で、歳出削減として、解消しなければならなくなるわけだ。
  下院歳入委員会のロステンコウスキー委員長(民主・イリノイ州)の計算によると、一千億ドルの赤字削減のためには@FBI職員千九百人を解雇するA国税局が二十万件の監査を取りやめるB麻薬対策費二十億ドルを削減する―などを含めて、大胆な措置が避けられないという。
  同委員長は「増税は不必要だという議員は<経済上で“地球平坦説”を唱える人物>だ」と述べるとともに、ブッシュ大統領が増税計画を口にしない限りは自分も正式提案は行わないとしながらも、ガソリンやビール、ワインなどに対する税の引き上げは避けられないだろうとの見解を示している。

  政府と議会が財政赤字削減方法を検討する<予算サミット>の第一回会合が十五日に行われた。だが、この日の会合では、増税をめぐって政府、共和党、民主党の思惑とかけひきが先行し、中身のある議論は展開されず、秋の中間選挙を意識して<選挙で不利になることは言わない>という姿勢だけが表面化したようだ。
  十五日の『ニューヨーク・タイムズ』の社説は、もしブッシュ大統領が財政赤字からくる苦しみを終わらせようと真剣に望み、民主党を話し合いのステージに乗せたいのなら、国民に人気のない政策でもあえて採用すべきだと述べ、増税にむけて同大統領が強力な指導性を発揮するよう求めている。

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