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1990年7月2日

公約破棄


  「増税はしない」と公約して選挙に勝ったブッシュ大統領が先月二十六日、その公約を破棄する考えを始めて明らかにした。>
  米国経済の現況からみれば、自然増収によって財政赤字が縮小する見込みは立たないことから、歳出引き締めは勿論のこと、いずれは増税に踏み切らざるをえないとみられていたため、大統領のこの決断は取り立てて驚きをもって迎えられてはいないが、中間選挙が秋にひかえている時期だけに、議会では今後いくらかの混乱も予想されている。
  与党共和党内では、政府が増税案をちらつかせる中での選挙は戦いにくいとの声が高く、下院議員九十人が「増税を含む予算案には賛成投票を行わない」とする書簡を大統領に送りつける騒ぎがすでにあった。
  社会保障費などの削減を最小限にして財政赤字を縮小するには増税も仕方がないとしている民主党も、正面きって“増税党”と名指しされるのは避けたいところで、ブッシュ大統領の予算案には慎重に対応するとみられる。
  大統領のせっかくの変心だが、財政赤字をどうするかという議論の前に“選挙”という文字ばかりがちらついては、両党とも、名案を思いつくことは難しいだろう。

  『ニューヨーク・タイムズ』(六月二十八日)の社説はブッシュ大統領の今回の決意を歓迎していた。
  「各種世論調査が示していたように、財政赤字を抑えるには税を上げるしかないと、ずいぶん前から皆が考えていたのに、ブッシュ大統領が頑ななまでに増税を口にしたがらなかったために、議会指導者の中にも自ら言い出すものは現れなかった」のだが、これでやっと議会で議論ができるようになった、というわけだ。
  同紙は、議会が早速考えなければならないことが三つあると指摘している。
  @連邦財政赤字のうちのいくらが削減されるべきか A削減分のうち、増税によって縮小される分をどれだけにするか Bどの税を引き上げるか―の三点だ。
  財政赤字の縮小がなぜ必要かについて同紙は「あまりも大きい財政赤字が危険なのは、新しい工場や設備などに投資されるはずの企業の資金が資本市場から引き揚げられるからだ。投資が行われない経済が成長するわけはない」と述べている。
  「いくら削減すればいいか」を早く決めなければならないのは、財政赤字削減が急務だといって巨額の歳出削減を一時に実施したのでは、国内の流通資金が枯渇して景気が後退してしまうとの考えに議会が達した場合、許容財政赤字幅に上限を設けた<グラム―ダドマン法>を改正する必要があるからだ。改正しなければ、同法により議会は自動的に二千億ドルの歳出削減を強いられることになる。この削減が実施されると、経済が停滞し国民生活が混乱するのは避けられない。
  「増税で縮小する分はいくらか」については、同紙は来年度縮小分を三百億ドルとみて、その半分、百五十億ドルは増税によるべきだ、と述べている。やはり、過度な歳出削減が国民生活に与える影響を考慮してのことだ。
  「どの税を引き上げるべきか」でも同紙は提案している。エネルギー消費に対して五%、ガソリンなら一ガロンにつき五セントの増税で百五十億ドルの増収が見込めるという。ほかに、酒類、たばこに“罪悪”税をかけて百億ドルの税収を得る方法もあるとも指摘している。

  同紙は、ブッシュ大統領の増税容認発言で「米国政治の中心課題がおよそ二年ぶりに、分別をもって語られるときがきた」と述べている。
  レーガン前大統領の“借金経営”のつけを背負ってスタートしたブッシュ政権に、財政赤字をこれ以上放置する余裕はない。赤字縮小の遅れがそのまま、産業再生、教育再生など、米国再生の遅れを意味するところまで来ているのだから。

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