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1990年7月23日

反日広告


  「いまから数年後のことを想像してください。十二月。家族がうち揃って大きなクリスマスツリーを見に行く。“ヒロヒト・センター”に立てられたツリーを…」という言葉が流れるテレビ広告がニューヨーク都市圏で放送されているそうだ。広告は「どうぞ、日本製自動車を買いつづけてください」との声が聞こえたあと、「もうたくさんだ」という白い文字が黒いスクリーンに浮かび上がるという作りになっているという。
  自動車会社GMの<ポンティアック>部門の販売部門が流しているCMだ。五本製作されたCMはすべて、その「もうたくさんだ」のメッセージで終わるらしい。

  『ニューヨーク・タイムズ』(七月十一日)に、日本人やその文化を攻撃する広告が米国で増加している事実を報告する記事があった。書いたのはランドール・ローゼンバーグという記者だ。
  同記者によると、日本車の進出で苦境に立たせられている自動車販売会社が地方のラジオ・テレビ局、新聞や雑誌なでで展開する広告に反日的な内容が多いという。
  おなじくニューヨーク地区で流されている自動車販売会社の広告に、米国人と日本人の身長差を露骨に比較するものがあるそうだ。この広告は<カトラス・シエラ>を売り込むために<トライスター・オールズモービル>の販売会社が流しているもので、「われわれの車が“日本人の”ではなく、米国人の家族サイズに合わせて造ってあるのはそのためです」と、日米の身長差を協調しているとのことだ。

  一方、情報化する社会に立ち遅れまいと、自社の活動を自由にするための法案の議会通過を狙って、電話会社<ベル>がこの春新聞に出した意見広告はこうだった。「最初は消費者向け電気製品だった。次は自動車産業。われわれ電話通信産業がこれにつづくのでしょうか」という文章があって、その下には、すぐにも飛び掛りそうに腰を低く身構えた厳めしいサムライの写真が添えてあったという。
  この新聞広告は、在ワシントンの日本大使館が苦情を申し入れたために、その後、掲載が中止されているそうだ。

  GMの広告責任者フィリップ・アラスシオ氏は、反日広告には直接触れないながらも、「比較広告を打つときは、消費者のニーズを考慮した基準というものがある。消費者のニーズというのはだいたい肯定的であり、そこからあまり離れては、危険を冒すことになる」と述べ、露骨な反日広告の効果に疑問を表明している。

  反日広告が始まったのは昨年冬からだといわれる。「米国車の品質は日本車に劣っていない」ということを信じようとしない米国の消費者に不満を表明したクライスラーのアイアコッカ会長の一連の広告がその始まりだとされている。だが、クライスラーのこの広告はいちおう、日本車の品質を認めたうえで製作されており、日本人や日本文化に言及するものではなく、その意味では反日の度合いは小さかった。

  反日広告が危険なのは、ごく普通の米国人の意識の中に、それと気づかれることなく、特定の、ゆがんだ日本像が築かれるからだ。
  ローゼンバーグ記者は、学者の意見だとしながら「これらの(反日)広告に見られる図式と感情は、第二次世界大戦時の米国文化の中にあふれた反日的な日本像に不快なくらいよく似ている」と指摘している。

  『ロサンジェルス・タイムズ』が十六日の社説で、海部首相が先ごろ発表した<日米コミュニケーション改善構想>について「日本はイメージの問題だけではなく(コメ市場を開放するかどうかなどという)現実の問題も抱えているのだ」と述べ、イメージ改善には実際の行動が伴わなければならない、と厳しい注文をつけていた。
  日本政府の対米政策のまずさが、これらの反日広告の登場を許しているという一面も否定できない。

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