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1990年8月2日

管理職員過剰


  UCLA(カリフォルニア大学ロサンジェルス校)のリチャード・ローズクランス教授(政治学)が「米国が繁栄をつづけたいのなら、われわれはビジネスや行政、教育の分野で数多くの根本的な改革を行なう必要がある」という意見を『ロサンジェルス・デイリーニュース』(七月二十三日)に寄せていた。
  「共産主義の凋落を祝う前に、経営学修士号を持つ米国人より日本の中学二年生の方が数学をよく知っているのはなぜか、米国はほんとうにソ連ほど凋落していないのかどうかをじっくりと考えてみるべきだ」と同教授は主張している。
  同教授が第一に憂えているのは「公共と民間、軍事と経済を問わず、われわれの組織があまりにも多くの管理職員を抱えている」事実だ。「職分が極度に専門化したことで、組織の本部は人員過剰となり、各種委員会が増殖する割には仕事が片づかない。指導的な米国企業は、単一の頭脳からではなく、一連の神経節からの(ばらばらの)指令で動かされているようなものだ」という。

  世界最大の自動車メーカーである<ジェネラル・モータース>(GM)では、従業員の七七・五%までがサラリー制で働くホワイトカラーで、第一線で生産に従事して賃金を得ているブルーカラーは二二・五%にすぎない。ホワイトカラーの比率は<モービル石油>で六一・五%、<ジェネラル・エレクトリック>で六〇%、化学製品の<デュポン>で五七・一%に達している。
  典型的な日本企業のホワイトカラー比率は米国の六分の一程度だそうだ。

  このような“官僚化”が進んでいるのはビジネスの世界だけではない。軍隊や学校組織でも同様だ。
  ベトナム戦争では、前線で戦う兵隊六万人を五十万人の後方組織が支援した。
  ロサンジェルス学校区では、実際に教室で生徒に教える教師の割合は五〇・六%にまで小さくなっている。ニューヨークでは四六・三%、デンバーにいたってはわずかに二四%でしかない。
  ローズクランス教授は「どの分野を見ても、軍曹や中尉よりも大尉(大佐)が多すぎて、米国の生産性を下げている」と嘆いている。これから米国企業がやるべきことは@幅広い能力を持つ重役を数少なく雇うA第一線労働者にもある程度の管理能力を持たせる―だという。

  変革のための提言はまだある。ローズクランス教授は、企業の重役は長期的視野に立った経営を行なう必要があると力説する一方、最も重要な資産である“人間資本”に米国はもっと投資するべきだと訴えている。そのためには、大学、企業、政府が学校教育に力を注ぐことが必要だし、国民の貯蓄も欠かせない、という。

  二十四日の『ニューヨーク・タイムズ』に、同紙が十一日に掲載した“反日広告”に関する記事に対する次のような投書があった。
  投書の主は、かつて日本に住んでビジネスを行なったことがあるメリーランド州の男性二人だ。二人は、日本にいたあいだに「日米の文化の差に根ざした困難に出合ったことはほとんどなかった」と述べ、「常識を持ってビジネスに臨むことが求められただけだ」と証言している。
  米国内での日本車販売シェアが二八%に達したことについても二人は「日本人はわれわれのニーズを分析し、米国車に勝る自動車を持ち込んでいるのだから当然だ」と述べ、さらに、米自動車業界が反日広告で日本に関する否定的イメージを煽ろうとしても米国の品位を落とすだけだと明言、「米国は製品の質で競争するべきだ」と主張している。

  こうした声が米国産業界に届き、変革が始まるのはいつのことだろうか―。

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