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1990年8月6日

西側からの援助


  ソ連の国家統計委員会がことし前半の同国経済に関する統計を発表した。ゴルバチョフ大統領の必死の努力にもかかわらず、経済危機が深刻化していることがこの統計で改めて明らかになったようだ。
  昨年前半との比較で、国民総生産(GNP)は一%の低下。労働生産性も一・五%下がった。また、国民所得も二%小さくなったと報告されている。

  『ロサンジェルス・タイムズ』紙(七月三十日)は、ソ連の国営『タス通信』が“ぶっきらぼうに”「経済回復は見られない。国家経済の将来はますます危機的状況となっている」と伝えていると報じている。それによると、ソ連の失業者数は全労働人口一億六千四百万人のうちの八百万人。物価上昇率は公式には五%、実際には一五%にものぼっていると見られている。そうした状況の中、国庫歳入は計画を二〇%も下回り、財政赤字は一億三百億ドルの当初見積もりを大きく超えて、ますます膨らんでいるという。輸入の急増で、貿易赤字も二・五倍になっている。

  現状を説明して国家統計委員会は「労働者は生産よりも稼ぎの方が多い暮らしをしているものの、その結果として、食料をはじめとする生活必需品を高く買っている」と述べている。食料品の値上がりは、例えばポテトが一〇%、野菜が九%に及んでいる。全体的な物不足が進む中で、基本的生活物資の値段は一四%も上昇している。

  『タイムズ』はさらに、統計に表れた数字以上にゴルバチョフ大統領を傷つけるものがあると指摘している。国民の我慢が限界に近づいていることと、社会的な不満がますます大きくなっていることだ。「ソ連が必要としているのはゴルバチョフ大統領が目指す市場経済化ではなく、経済のより良い計画・管理だ」とする保守派からの攻撃も強まっているという。
  経済立て直しに失敗すれば、ゴルバチョフ大統領への政治的支持が弱まることは明らかで、しかも、改革の成果をあげるために残された時間はもうほとんどない状態だ。

  ソ連の経済学者の一人は「食料品などの消費物資の不足は“社会的に危険”である」とし、ゴルバチョフ大統領に対して、外国の資金援助を受けても消費物資を緊急輸入するべきだと提言しているそうだ。また、他の一人は、現内閣はすでに支持を失っているとの考えを示し、経済改革努力に勢いを回復したいなら、新内閣で新戦術を打ち立てる必要があると訴えているという。
  その学者たちに対してゴルバチョフ大統領は「一部の国とは立場も違い、関係も複雑であるが、財政面を含め、西側からの援助を求めるしかない」との考えを示しているそうだ。

  ソ連政府は七月二十九日、米国政府に対し、米国からの穀物輸入に際して大規模な信用供与を受けたいとの申し入れを行なっている。米国農務省によると、食料品購入に関するソ連の借り入れ希望額は総額二十億ドルに達している。

  世界を東西に分けていた壁の撤廃、東欧民主化、緊張緩和のきっかけとなったゴルバチョフ大統領の<ペレストロイカ>(変革)の運命が西側諸国からの援助の有無で決定される状況となっているようだ。

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